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更新日:2019/12/31

抗がん剤治療による悪心・嘔吐の新しい制吐療法

静岡県立静岡がんセンターと国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院を中心に全国30施設からなる研究グループは、抗がん剤の治療による悪心(吐き気)・嘔吐(吐くこと)を抑える新たな制吐療法の有用性を、医師・薬剤師主導の第3相ランダム化比較試験:J-FORCE試験(J-SUPPORT 1604)で明らかにした。

抗がん剤治療がもたらす様々な副作用のうち、悪心・嘔吐は半数以上の患者が経験しており、化学療法の継続・完遂の妨げや予後にも影響を与える。例えば、肺がんや食道がん、子宮がんなどで標準治療として使われているシスプラチンは催吐性リスクが90%以上と高く、投与後数日間にわたり車酔いのような状態になる。そのため患者の生活の質が下がらないようにするためには悪心・嘔吐の持続的抑制が必要である。しかし、現在の標準的な制吐療法での嘔吐完全抑制割合は、シスプラチンの投与後24時間の急性期(投与当日)は約90%であるが、24時間以降の遅発期(投与2から5日目)では約65%と下がるため、持続的な抑制効果の維持が課題であった。

本研究に用いたのは、従来の抗精神病薬に特徴的な副作用が非常に少ない新しいタイプ(非定型抗精神病薬)のオランザピンという薬である。オランザピンの制吐効果を抗がん剤による悪心・嘔吐に対して活かす研究が米国を中心に複数行われ、その有効性は明らかとなっている。しかし、10mgという高用量を用いており、眠気やふらつきといった副作用が強く安全に使用できる十分な根拠に乏しいため、日本や欧州では普及に至っていなかった。

本研究の特徴は、1.オランザピンの用量を5mgにしたこと、2.オランザピンの内服時間を就寝前ではなく夕食後にしたことである。オランザピンは血液中の薬の濃度が最も高くなるまでに服用後3-4時間を要するので最も眠気の強い時間が就寝中となり、翌朝の眠気やふらつきを抑える工夫をしたことで、この試験デザインは世界的に高く評価された。

本試験では、現在の標準的な制吐療法(セロトニン受容体拮抗薬、ニューロキニン1受容体拮抗薬、ステロイドの3剤を併用)と、オランザピン5mgを上乗せする併用療法を比較するため、それぞれのグループに患者を無作為に分け、また患者も医師・薬剤師・看護師もどちらのグループか分からないようプラセボ(偽薬)を用いて比較した。このような試験を、プラセボ対照二重盲検ランダム化第3相比較試験と呼び、どちらがよいか分かっていない治療法を比べるのに最も科学的な良い方法である。

試験の結果、主要評価項目である遅発期の嘔吐完全抑制(CR)割合は、オランザピン群 79%、プラセボ群 66%で、オランザピン群が有意に良い成績であった。その差は13%であり、より有効な新たな治療と認められる国際的な基準である「10%以上の改善」を満たしていた。また、急性期の悪心嘔吐総制御(TC)割合を除く全ての副次評価項目においても、オランザピン群が有意に良い成績であった。すなわち、嘔吐せずかつ救済治療なしに過ごせる割合が改善しただけではなく、悪心の程度についても明らかな改善効果が確認された。

「日中の眠気」についてはオランザピン群とプラセボ群とで大きな差はなく、 「不眠なし=良眠」の頻度はむしろオランザピン群の方が高くなった。オランザピンの内服時間を従来の就寝前から夕食後にしたことで就寝時には副作用である眠気がむしろ良眠に繋がり、翌日の日中には眠気が残りにくいということが示唆された。また、「食欲低下」についてはオランザピン群が有意に低い結果となり、食欲低下を軽減する効果も示唆された。このような結果はオランザピン10mgを用いた米国の研究では示されていなかった。

本研究によって、オランザピンによる日中の眠気やふらつきを抑えながら、悪心・嘔吐の抑制効果の改善が求められている遅発期の改善効果を確認できたことにより、オランザピン5mgを併用するこの制吐療法がシスプラチンに対する新しい標準的な制吐療法として国際的な制吐療法ガイドラインに採用されることが期待される。
(Medister 2019年12月31日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 抗がん剤治療による悪心・嘔吐の新しい制吐療法標準制吐療法を上回る試験結果に

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