更新日:2019/12/19
リキッドバイオプシーによる脳腫瘍診断モデル作成
国立研究開発法人国立がん研究センターと東京医科大学の研究チームは、通常CTやMRIなどの画像で診断される脳腫瘍について、血液を用いたリキッドバイオプシーによる診断モデルの作成に成功した。
脳腫瘍は脳に発生する原発性脳腫瘍と他部位のがんの脳転移による転移性脳腫瘍に分類される。原発性脳腫瘍は約150種類に分類され、悪性脳腫瘍として悪性神経膠腫(グリオーマ)、中枢神経系原発悪性リンパ腫、良性脳腫瘍として髄膜腫、神経鞘腫が代表的な原発性脳腫瘍となる。また、悪性神経膠腫の中で最も悪性度の高い膠芽腫は、手術に加えて放射線治療と化学療法を行なっても1.5年から2年で半数の患者が命を落とす非常に予後の悪い病気である。
本研究では、脳腫瘍を有する患者266例と有さない患者314例、計580例の血液(血清)中のマイクロRNAを網羅的に解析した。特に頻度の高い悪性神経膠腫の鑑別を目指すため、悪性神経膠腫157例、悪性神経膠腫以外の脳腫瘍109例に分けて解析した。
その結果、悪性神経膠腫で有意に変化する複数のマイクロRNAを同定し、そのうち3種のマイクロRNAを組み合わせることで悪性神経膠腫を判別できる判別式(グリオーマ判別式:「Glioma Index」)を作成した。
解析対象例を探索群と検証群の2つに分けこのグリオーマ判別式の精度を検証した結果、悪性神経膠腫患者全体の95%を正しくがんであると判別することができ、診断精度の極めて高い診断モデルの作成に成功したことを確認した。
また、悪性神経膠腫の組織型と悪性度(グレード)別の検証においても、グレードII星細胞腫 100%、グレードII乏突起膠腫 100%, グレードIII星細胞腫 90%, グレードII乏突起膠腫 100%, 膠芽腫 93%の患者群を陽性と診断でき、グレードIIの患者群においても高い精度で陽性と診断することができた。
さらに、このグリオーマ判別式は悪性神経膠腫以外の脳腫瘍109例の検証において、上衣腫・毛様細胞性星細胞腫などの腫瘍 100%、中枢神経系原発悪性リンパ腫 93%、転移性脳腫瘍 89%、髄膜腫・神経鞘腫 91%、頭部外傷・脳梗塞100%の患者群を陽性と診断する一方で、2例の脊髄の神経鞘腫はいずれも陰性と診断し、このグリオーマ判別式は悪性神経膠腫を含む脳腫瘍の診断に役立つ可能性が考えられた。
次に膠芽腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍は頻度の高い脳腫瘍で、時々画像所見からはこの3つの腫瘍の区別がつきにくい場合があるため、グリオーマ判別式と同様の統計学的手法を用いてこの3種類の腫瘍を判別するマイクロRNAの組み合わせ判別式(3種類の脳腫瘍の判別式:「3-Tumor Index」)を作成した。組み合わせ判別式は48種類のマイクロRNAで構成され、解析対象例を探索群と検証群の2つに分け精度を検証した結果、同モデルは膠芽腫の94%、中枢神経系原発悪性リンパ腫の50%、転移性脳腫瘍の80%を正しく判別した。この結果により、中枢神経系原発悪性リンパ腫の診断精度は低いものの膠芽腫や転移性脳腫瘍はマイクロRNAを用いて診断できる可能性が示された。
本研究により作成された血液を用いたリキッドバイオプシーの診断モデルは、過去に類を見ない、極めて高い診断精度であり、かつその精度を血液からの情報のみで実現できたことは大変意義の大きい成果である。本研究成果を今後、前向きの臨床研究でさらに検証および最適化を重ねることで、脳腫瘍の早期診断の確立に向けて大きな前進が期待できる。
(Medister 2019年12月19日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース リキッドバイオプシーによる脳腫瘍診断モデル作成 脳腫瘍の早期発見・早期治療介入による予後の改善に期待