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更新日:2019/12/15

がん抑制遺伝子が不活性化される新たなメカニズムの発見―成人T細胞白血病、悪性リンパ腫のエピゲノム異常の原因特定と新薬の開発にむけて―

東京大学大学院新領域創成科学研究科の山岸誠特任講師、内丸薫教授らの研究グループは、このエピゲノム異常と呼ばれる現象の一因となる酵素群(EZH1とEZH2)の複雑な働きを紐解き、多くのがん抑制遺伝子が不活性化される新たなメカニズムを発見した。さらに、EZH1とEZH2を同時に阻害できる新たな化合物を第一三共株式会社と共同で開発し、有効な治療法が確立されていない成人T細胞白血病リンパ腫(ATLや悪性リンパ腫の遺伝子の発現パターンを正常に戻すことによって、がん細胞を特異的に死滅させることを明らかにした。また、その化合物はヒトT細胞性白血病ウイルス1型(HTLV-1)などのウイルスに感染した前がん状態の細胞に対しても効果があり、発症予防などへの応用の可能性も示された。

エピゲノムは細胞の基本的性質や運命を決定する極めて重要な特徴であり、がん細胞は例外なく正常と異なるエピゲノムを形成している。がん細胞に特徴的なクロマチン構造を決定する要因の多くは、外的または内的要因によって関連する酵素群が質的・量的に変化し、誘導される可逆的な性質を持つため、がんなどの疾患における標的となる分子としても古くから期待されていた。メチル化ヒストン(H3K27me3)の異常な蓄積によるエピゲノム異常は、多くのがんや造血器腫瘍で見られる代表的な性質である。H3K27me3の変化によって非常に多くの遺伝子の発現パターンが変化し、腫瘍細胞の増殖能、走化/転移/浸潤能、分化異常、化学療法への耐性、宿主免疫からの逃避機構などのさまざまな特徴に対して、極めて重要な影響を及ぼすことが分かっている。

研究グループは、ATLや他の悪性リンパ腫において、H3K27me3を誘導するEZH1とEZH2の二つの酵素が腫瘍細胞内に共存することに気づき、両分子のクロマチン上の分布を解析した結果、両者は協調してH3K27me3を蓄積させることを明らかにした。また、多くのがんで高頻度に見られるエピゲノムに関連した遺伝子の異常が、H3K27me3を蓄積させることを見出し、このプロセスにおいてもEZH1とEZH2が協調して機能することを明らかにした。興味深いことに、EZH1またはEZH2のいずれかの遺伝子を不活性化すると、もう一方の酵素が失われた機能を補うことで高いレベルのH3K27me3の蓄積が保たれ、がん抑制遺伝子の発現も不活性化されたままであることが分かった。この二つの酵素が相互に機能を補償する効果によって、がん細胞のエピゲノムが保たれる恒常性は、H3K27me3の蓄積を標的とした治療のコンセプトの障害となることが示唆された。

そこで研究グループは、第一三共株式会社と共同でEZH1とEZH2の両方を阻害する新たな化合物(EZH1/2阻害物質)を開発し、ATLなどの多くの悪性リンパ腫や、エピゲノムに関連した遺伝子に変異を持つ多くの種類のがんに対して、有効である実験データを得た。新たな化合物は、EZH1とEZH2による相互の補償効果を打ち消すことで、従来のEZH2のみを阻害する薬と比較してH3K27me3を減少させる高い効果を示し、遺伝子の発現を正常化することで抗腫瘍効果を発揮することが分かった。さらに、予後が比較的良い慢性型またはくすぶり型のATLや、HTLV-1やEpstein-barr (EB)ウイルスに感染した前がん状態の細胞においても同様のエピゲノム異常が存在し、さらに新たな化合物(EZH1/2阻害物質)が有効であることも明らかにした。今後はEZH1/2に依存したエピゲノム異常を標的とすることで、早期の治療介入や発症予防などへの展開が期待される。
(Medister 2019年11月25日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース がん抑制遺伝子が不活性化される新たなメカニズムの発見―成人T細胞白血病、悪性リンパ腫のエピゲノム異常の原因特定と新薬の開発にむけて―

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