更新日:2019/10/22
前立腺がん若年発症のゲノム診断
理化学研究所(理研)生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの中川英刀チームリーダー、岩手医科大学の髙田亮講師、京都大学の赤松秀輔助教、東京大学大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授らの共同研究グループは、オーダーメイド医療実現化プロジェクトで実施した網羅的ゲノム解析により、日本人の前立腺がんと関連がある一塩基多型(SNP)を新たに12個発見した。さらに、これらを含むこれまで発見された82個のSNPを組み合わせ、日本人の前立腺がんの若年発症を予測するゲノム診断手法を開発した。
前立腺がんは、世界的にみても発症頻度の高いがんの一つであるが、これまで欧米人に多くアジア人には少ないと考えられてきた。しかし、日本でも、食生活などの生活習慣の欧米化や人口の超高齢化に伴い、その罹患者数は急激に増えてきており、2018年の罹患者は約7万8,000人以上に上っている。前立腺がん発症の一般的な危険因子としては、人種(アフリカ人>欧米人>アジア人の順に多い)、欧米型の食生活、体内のホルモン環境、加齢などが挙げられますが、特定の危険因子は分かっていなかった。しかし、遺伝性前立腺がんの存在や、日本や欧米での研究により、前立腺がんの発症に関連する多数の遺伝子や一塩基多型(SNP)が発見されたことから、発症には遺伝的要因が深く関わっていることが明らかになってきている。
2010年と2012年に理研の研究チームは、オーダーメイド医療実現化プロジェクト/バイオバンクジャパン(BBJ)で収集した約5,000人の日本人サンプルを対象にゲノムワイドSNP関連解析を実施し、9個のSNPが日本人における前立腺がん発症と強い関連があることを発見した。今回、新たに約9,900人の日本人前立腺がん罹患者(BBJおよび慈恵医大)と約8万4,000人の男性対照群(東北大学東北メディカル・メガバンク機構、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構などより検体の提供を受けた)に対して、ゲノム全体にある50万個以上のSNPの頻度情報をもとにゲノムワイド関連解析を行った。その結果、新たに12個のSNPが日本人の前立腺がんと強く関連することを発見した。これらのSNPがあると、発症リスクがSNPの数1個につき1.12~1.31倍高まることが分かった。これまで、欧米人を中心とした研究で170個以上のSNPと前立腺がんの発症が証明されているが、今回の日本人の解析では、その約半数は日本人の前立腺がんとの関連は証明されず、前立腺がん関連のゲノムは人種間の差が大きいと考えられている。
今回、これまでに日本人の前立腺がん発症と関連が証明された合計82個(本研究より新たに発見された12個を含む)のSNP情報を組み合わせて、前立腺がん発症リスクを予測するゲノムリスクスコア(PRS)を開発した。その上位5%の高リスク群(発症リスクが2.5倍以上)の臨床情報を解析した結果、若年発症(60歳未満)および前立腺がん家族歴のある症例が有意に多く含まれていた。さらに、発症年齢が若い群ほど、PRSでの高リスク群の割合が高くなることが分かった。
今後、日本人の前立腺がんSNP関連解析をさらに進め、新たなSNPを発見できれば、PRSのような方法でSNPを多数組み合わせることが可能になり、より精度が高く、かつ日本人に合った前立腺がん、特に治療介入が必要な若年発症や悪性度の高い前立腺がんの発症リスク評価方法や診断方法の開発が進展すると期待できる。
(Medister 2019年10月22日 中立元樹)
<参考資料>
理化学研究所プレスリリース 前立腺がん若年発症のゲノム診断 -前立腺がんのゲノムワイド関連解析からゲノム医療へ-