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更新日:2019/09/21

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ―細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて―

岐阜大学医学部整形外科(研究当時:京都大学iPS細胞研究所)の河村真吾助教、東京大学医科学研究所の伊藤謙治特任研究員、山田泰広教授らの研究グループは、明細胞肉腫(Clear Cell Sarcoma : CCS)のマウスモデルに形成された腫瘍の細胞株からiPS細胞を樹立し、このiPS細胞をマウスの胚盤胞に移植することで、CCSと同じ遺伝子変異を持つキメラマウスを作製した。

遺伝子変異(DNAの 配列異常)は発がんの原因の一つと考えられている。一方で、細胞・組織ごとに異なるエピゲノム(遺伝子配列の使い方)も発がんにおいて重要であることが示唆されている。また近年、個体の老化に関与している細胞老化が、発がんの抑制機構として働いていることが分かってきた。本研究では、若者に発生するが高齢者では少ないCCSに着目し、発がんにおけるエピゲノム制御の重要性と細胞老化の役割を個体レベルで解明することを目指して研究を行った。

研究グループでは、CCSのマウスモデルに形成される腫瘍からCCSの細胞株を樹立していた。今回の研究では、このがん細胞株からiPS細胞(CCS-iPSCs)を樹立して研究に用いた。CCS-iPSCsをマウスの胚盤胞に移植することで、CCSの遺伝子変異(DNAの 配列異常)を持ち、かつ薬剤依存的にCCSのドライバーとなる融合遺伝子(EWS/ATF1融合遺伝子)を発現誘導することが可能な細胞を全身に持つキメラマウスの作製に成功した。このキメラマウスに薬剤を飲ませてEWS/ATF1融合遺伝子の発現を再誘導したところ、全身のさまざまな組織でEWS/ATF1を発現しているにもかかわらず、皮下組織でしか腫瘍は形成されないことを明らかにした。このことから、発がんには遺伝子変異だけでなく、細胞・組織ごとに異なるエピゲノム(遺伝子配列の使い方)も重要であることが示された。

続いて、CCS-iPSCsを用いて作製したキメラマウスでの発がん過程を詳細に解析した。近年の研究により、細胞老化ががん抑制機構として働いている可能性が提示されていることから、細胞老化を示すマーカーとして知られている遺伝子群(p21, p53)の発現に着目した。その結果、腫瘍が形成されなかった多くの組織では、これらの細胞老化に関連する遺伝子群が発現しており、さらに細胞増殖も停止していることから、細胞老化が起きていることが分かった。一方で、腫瘍が形成された皮下組織では細胞老化の回避が起こり、速やかに活発な細胞増殖が誘導されることを示した。

がん細胞と同じ遺伝子変異をもつにもかかわらず、細胞老化が誘導され細胞増殖が停止するメカニズムを明らかにするために、CCSと同じ遺伝子変異をもつキメラマウス胎児由来の線維芽細胞を用いて大規模なエピゲノム解析を行った。その結果、線維芽細胞では遺伝子発現に重要な役割をもつエンハンサー領域が元々のがん細胞であるCCSとは大きく異なることが分かった。さらに、この知見を踏まえ、CCSの細胞株において認められる特定のエンハンサー領域を人為的に変化させることによりがん細胞であるCCSに細胞老化が誘導され、細胞増殖が抑制できることが分かった。これらの結果から、がん細胞のエピゲノム状態を制御して細胞老化を誘導することで新たながん治療法を開発出来る可能性を提示した。

本研究では、発がんの抑制における細胞老化の重要性を個体レベルで明らかにした。また、細胞・組織ごとに異なるエピゲノム、特にエンハンサー領域の違いが、細胞老化誘導の違い、さらには腫瘍形成の違いの原因となっていることを明らかにした。さらに、がん細胞で認められるエンハンサー領域を人為的に変化させることで、がん細胞に細胞老化を誘導し、細胞増殖を抑制することを示すことができた。以上の結果から、がん細胞のエピゲノムを標的とすることで細胞老化の仕組みを利用したがんの制御法の開発に貢献できる可能性が示された。
(Medister 2019年9月21日 中立元樹)

<参考資料>
日本医療研究開発機構プレスリリース 細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ―細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて―

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