更新日:2019/08/16
前立腺がんの「ゲノム医療」に貢献 日本人での原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴の大規模解析
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、東京大学医科学研究所の村上善則教授、栃木県立がんセンターゲノムセンターの菅野康吉ゲノムセンター長、国立がん研究センターの吉田輝彦遺伝子診療部門長らの国際共同研究グループ)は、世界最大規模となる約2万人のDNAを解析して、日本人遺伝性前立腺がんの原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴について明らかにした。
前立腺がんは、世界で2番目に、日本人男性では4番目に患者数の多いがんであり、この20年間で患者数が急激に増加している。そして、多くのがんの中で、前立腺がんは遺伝性が強いがんとして知られている。その原因として、1.これまでゲノムワイド関連解析(GWAS)により明らかにされてきた、疾患発症に及ぼす影響は小さいものの頻度が高い「一塩基多型(SNP)」、そして2.頻度は非常に低いものの疾患発症リスクを大きく上げる「病的バリアント」の寄与が挙げられる。前立腺がんの原因遺伝子としては、乳がんの原因遺伝子としても知られるBRCA1、BRCA2を含め、8種類ほどが報告されている。
前立腺患者がBRCA1やBRCA2に病的バリアントを持つ場合には、乳がんの場合と同様、PARP阻害剤などの薬が効果的であることが知られている。そのため、ある前立腺がん患者がこれらの病的バリアントを持つことが、遺伝子検査によって明らかになれば、乳がんと同じようにPARP阻害剤による治療効果が期待される。さらに、同じ遺伝子が寄与する他のがんの早期発見、近親者に対する遺伝子検査も利用した発症予防が期待される。
このような「ゲノム医療」を行うには、遺伝子検査結果の解釈、病的バリアント保有者の発症リスク、臨床的特徴についての大規模なデータが不可欠である。桃沢チームリーダーらは2018年に、日本人の遺伝性乳がんの病的バリアントデータベースを構築し、ゲノム医療に貢献した。
しかし、前立腺がんは乳がんと異なり、このようなデータが世界的に不足しており、ゲノム情報を用いた診療のガイドラインもない。そこで、前立腺がんについて、原因遺伝子・疾患発症リスク・臨床情報の関係を大規模なサンプルで明らかにすることが、前立腺がんのゲノム医療につながると考え、研究を開始した。
今回、国際共同研究グループは、前立腺がんの原因と考えられる8個の遺伝子について、バイオバンク・ジャパンにより収集された前立腺がん患者7,636人および対照群12,366人のDNAを、独自に開発したゲノム解析手法を用いて解析した。その結果、136個の病的バリアントを同定し、病的バリアント保有者は患者の2.9%であること、BRCA2、HOXB13、ATMの3遺伝子が発症に関わっていること、病的バリアント保有者の臨床的特徴などを明らかにした。今後、これらのデータは国内外の公的データベースに登録、活用される予定である。
また、今回解析した病的バリアントを含む遺伝子は卵巣がんや膵がんなど様々なながんの原因となることが示唆されているが、これらの遺伝子に病的バリアントを持つ患者には、がんの種類を越えてPARP阻害剤などの治療効果が高いことが報告され始めている。その恩恵を享受するためにも、今後、他のがん種についても同様の大規模解析が必要であると考えられる。
(Medister 2019年8月16日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 前立腺がんの「ゲノム医療」に貢献 日本人での原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴の大規模解析