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更新日:2019/05/12

均一な構造の抗体-薬物複合体

理化学研究所(理研)開拓研究本部伊藤細胞制御化学研究室の眞鍋史乃専任研究員と山口芳樹客員研究員、株式会社伏見製薬所の伏見豊社長、日本ウォーターズ株式会社の廣瀬賢治マネージャー、国立がん研究センターの松村保広分野長らの共同研究グループは、抗体の糖鎖構造を改変しつつ糖鎖部分に薬物を結合させた均一な構造の「抗体-薬物複合体(ADC)」を作製する手法を開発した。

次世代抗体医薬として、「抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)」の研究開発が盛んに行われている。ADCは、がん細胞に高発現している抗原に対して高い親和性を持つ抗体に殺細胞効果のある低分子薬物を結合させたもので、この抗原に対する高い親和性によりがん組織へ運ばれたADCの薬物は、がん組織に到達した後、徐々に放出されるように化学修飾されている。そのため、薬物は抗体に結合している間は毒性を示さず、放出されたときにのみ毒性を示すので、正常組織を壊しにくく、副作用を低減させる効果もある。

現在、乳がん治療に用いられるトラスツズマブ エムタンシンをはじめとして、4種類のADCが承認されており、世界中で60種類以上のADCが開発中である。現在使用されているADCでは、抗体と薬物を結合するのに抗体のリシン残基のアミノ基、あるいはシステイン残基のスルフヒドリル基を介して結合する手法が使われている。しかし、抗体には同一アミノ酸残基が複数存在するため、これらの方法では位置選択的な反応ができず、結合薬物の数と位置が異なる多種類のADCが生成されてしまう。このように、薬物の結合位置や数が異なるADCは、薬物の放出速度や安定性などが異なるため、薬効や合成面での再現性が問題となる。また、健康医療戦略推進法のレギュラトリーサイエンスの観点からも、均一な構造のADCの作製法の開発が望まれていた。

今回、共同研究グループは、糖鎖加水分解酵素とその改変体を組み合わせることにより、均一な構造のADCを作製できる手法を開発した。詳しい解析に基づく反応条件の最適化により、糖鎖の付加の過程で起こる副反応を抑えることが可能となった。また、合成したADCは、抗原が高発現しているがん細胞には毒性を示す一方、そうではない細胞には毒性を示さず、抗原依存的に殺細胞効果を示すことが明らかになった。

本手法では、糖鎖部分に薬物を結合させており、抗体の可変領域には薬物が結合しないので、抗体の抗原への親和性を損なうことがない。さらに、ADC製造過程では、免疫原性を持つ糖鎖部分も除去できることから抗体医薬やADC製造のコストを低減させることも期待できる。今後、さまざまな抗体に応用し、汎用性を広げていく方針だという。
(Medister 2019年5月12日 中立元樹)

<参考資料>
理化学研究所プレスリリース 均一な構造の抗体-薬物複合体 -糖鎖を利用した薬物連結により効果的な合成方法を実現-

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