更新日:2018/08/07
日本発の放射性治療薬医師主導治験(第I相臨床試験)悪性脳腫瘍で開始
国立研究開発法人国立がん研究センターと国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所(以下、「量研放医研」という)は、悪性脳腫瘍に対する新規治療薬として放射性治療薬64Cu-ATSMを共同開発してきた。今回、同薬剤を治療目的に世界で初めて人へ投与するファースト・イン・ヒューマン試験として、標準治療終了後に再発した悪性脳腫瘍(膠芽腫、原発性中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性髄膜腫)の患者を対象に医師主導治験(第I相臨床試験)を国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)で開始した。
頭蓋内に発生する悪性脳腫瘍には、神経膠腫、中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性髄膜腫などがある。これらの悪性脳腫瘍の治療において、既存の治療法(外科手術、放射線治療、化学療法等)で十分な効果が得られず、再発した場合の治療法は確立していない。これは、悪性腫瘍は活発に増殖するため血管新生が追い付かず、酸素の供給が乏しい低酸素環境になるため、既存治療法の効果が弱まってしまうことが一つの重要な要因になっているものと考えられている。
今回開発した放射性治療薬64Cu-ATSM[64Cu-diacetyl-bis (N4-methylthiosemicarbazone)の略]は、低酸素環境下で治療抵抗性を有する腫瘍細胞に高集積し、高い治療効果を発揮するという。放射性核種64Cuは、既存の放射性治療薬(131Iや90Y)で放出されるベータ線の他に、がん細胞DNAを効果的に損傷する特殊な電子(オージェ電子)を放出するため、がん細胞に対し高い殺傷効果が期待できる。64Cu-ATSM治療はこの新しいメカニズムで、低酸素化した治療抵抗性腫瘍を攻撃する治療法で、既存治療法で十分な効果が得られず再発した悪性脳腫瘍の治療において効果を発揮することが期待される。
そこで、国立がん研究センター中央病院と量研放医研は、64Cu-ATSM治療の医師主導治験の準備をしてきた。本医師主導治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業等の支援を受け、国立がん研究センター及び量研放医研で行っているものであり、薬剤製造体制の強化はAMED革新的がん医療実用化研究事業等の支援を受け実施に踏み切ったという。
(Medister 2018年8月7日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 日本発の放射性治療薬医師主導治験(第I相臨床試験)悪性脳腫瘍で開始