更新日:2020/12/29
もしも一年後、この世にいないとしたら。
がんは、今ではいろんな治療法がありますが、がんと診断されたときには多くの人が死を意識します。患者さんの中には、心身のバランスを崩してしまい、がんの治療どころか生きること自体に希望を見いだせなくなってしまう場合すらあります。そのような患者さん3500人以上の声を聞き、心のケアに務めてきた国立がん研究センター(現在はがん研究会有明病院に勤務)の清水研先生が伝える、死ぬときに後悔しない生き方について考える本です。
悩みと向き合う力「レジリエンス」
「精神腫瘍医」という職業を聞いたことがあるでしょうか。精神腫瘍医とは、がん専門の精神科医、心療内科医のことです。清水先生は精神腫瘍医として、日々がん患者と対話を通じて心のケアをしています。
清水先生が今の仕事を通じて実感したことは、「人は悩みと向き合う力をもっている」ということです。この力のことを「レジリエンス」といいます。清水先生は、レジリエンスを育むために大切なことは、悩みを深く理解するために対話すること、大切なものを失ったことに対してきちんと悲しむための場を提供すること、と考えています。日常生活についても、ちょっとした悩みを他人に聞いてもらうだけで楽になった、ということを経験したことがあるでしょう。生死に関わるようなものでも、「自分の悩みを誰かが理解してくれた」と思ったときに苦しみが少し癒えるのは似ているようです。
本書では、清水先生が対話してきた患者さんが何人か登場します。20歳で白血病と診断された大学生、10年後の未来のために一生懸命働いてきたから10年後がない自分はどう生きればいいのかわからない……これまでの人生や悩みは人それぞれですが、どこか共感できる、理解できるところはあるのではないでしょうか。清水先生は、「健康で平和な毎日が失われたという喪失と向き合うこと」と「様変わりした現実をどう過ごしたらそこに意味を見いだせるかを考えること」という2つの課題に向き合うところから始まると書いています。
「must」の自分と「want」の自分
もちろん、患者さんの全員が全員、素直に気持ちを切り替えられたわけではありません。むしろ、そうした気持ちの切り替えを拒む「もう一人の自分」がいるのも事実です。清水先生の仕事は、対話を通じて「もう一人の自分」という存在を患者さん自身に認識してもらい、そこからあるがままの自分の気持ちに向き合えるようにすることでもあります。
本書の後半では、「must」の自分と「want」の自分、という言葉が多く出てきます。「must」の自分とは、こうあるべき、こうしなければならないと、自分や周囲から縛られている自分のことです。そして「want」の自分とは、こうしたいという自分の心の底からの気持ちです。両方とも自分であることは確かですが、「must」の自分は悲しんだり落ち込んだりすることを許さず、がんなどの大きな障壁が現れたときに行き詰まってしまいます。
そこで清水先生は、「want」の自分に向き合うことを提案しています。健康は永遠に続くものではなく、人生にはいつか終わりがきます。終わりが目の前に現れたとき、「自分の人生を生きてきた」と満足できるかどうかこそが大切なのではないか、と清水先生は考えています。
一例として、清水先生の個人的な体験談が書かれています。初めて「must」の声に反抗して「want」の自分に従ったのは、参加しなくてもいい会合を断り、当時見たかった映画を鑑賞して癒されたというものです。本当にささやかなことですが、こういったことから本当の自分の気持ちと向き合えるようになる、とのことです。
がんと診断されてどう生きていけばいいのかわからなくなっている人はもちろんのこと、仕事ばかりの日々にもやもやしている人にとっても、生きるとはどういうことか、ということに対するヒントが得られる本です。
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