更新日:2021/05/29
がんになった人だけが知っている人生で大切なこと
がんと診断されると誰もが心細くなるものです。そんな時、頼りになるのが同じ経験をした仲間たちの存在です。本著はがんサバイバーと呼ばれる患者さん6名の体験が、コミックをベースに紹介されています。著者は、医師であり自らもがんサバイバーである坂下千瑞子氏。多くの仲間との出会いによって生き方を学んだといいます。同著には、がんを乗り越えて生きるために必要なテーマが綴られています。
39歳で骨軟部腫瘍と診断
坂下氏ががんと診断されたのは2005年のこと。研究のためご主人と共に米国に滞在していた39歳の時でした。ある朝、背中の痛みを感じた坂下氏。当初は寝違えた程度にしか思っていませんでした。しかし、痛みは次第に強くなり、しびれまで出てきます。ご主人の上司に相談して検査をしてもらうと、悪性腫瘍の疑いがあるとの結果。しかも原発不明がんとのことでした。坂下氏は、ご主人と相談して日本で治療を受けることを決め帰国することに。
日本での診察の結果は「骨軟部腫瘍(脊椎腫瘍)」ということで、手術を受けることになりました。手術は11時間にも及ぶ大手術。退院後も背中の痛みは持続し、心細い日々が続きます。死への恐怖や将来への不安、家族のことなど、さまざまな不安がよぎります。そんな時に支えられたのは娘さんの存在でした。
ところが、手術から1年後、再発が判明します。再発のため手術はできませんでしたが、重粒子線治療を受けることができました。その後、抗がん剤治療のため入院。いつまで生きられるのか、といった不安が膨らむなか、テレビで知ったのが「リレーフォーライフ」の存在でした。テレビ画面の「がんでもいいじゃん」という言葉が坂下氏の心にひびきました。
がんになっても仲間たちがいることを知ってほしい
リレーフォーライフとは、1985年にアメリカで始まった支援活動です。腫瘍外科医であるクラット医師ががん患者さんを支援するため、グラウンドを24時間走って寄付集めをしたのが始まりといわれているそうです。
日本でリレーフォーライフが正式に開催されたのは2007年、芦屋でのこと。大会に参加するため、坂下氏は実行委員会に応募します。この日のために治療のスケジュールも調整しました。大会は24時間開かれ、多くの仲間たちとの出会いがありました。
坂下氏は、リレーフォーライフなどのイベントに参加する時、いつもタコの帽子をかぶるといいます。英語のキャンサーには「大きなカニ」という意味があるそうで、タコはカニが大好物らしく、がんをやっつけてほしいという願いが込められているそうです。
同じ空間に集い、そして共に歩むことで希望をつなぐ。そして、次回のイベントでまた会うことを約束して別れる。そんな繰り返しの中で、絆が深まっていくのだと坂下氏は話します。
がんになっても、たくさんの仲間やサポーターがいることを知ってほしい。患者さんが、「がんとは言えない」という社会を変えていきたい。そんな熱い情熱を持ち、坂下氏は活動に取り組んでいます。
活動を通して出会った人たちの中に生きるヒントがある
同著には坂下氏のほか、乳がん、膀胱がん、鼻中隔がん、子宮頸がん、急性リンパ性白血病などのがん患者さんの体験が紹介されています。それらの患者さんたちは、いずれも著者が患者支援活動で出会った仲間たち。年齢もがん種も生きてきた背景も全く違います。
がんを患うまで医師として多くの患者さんに寄り添ってきた坂下氏。自身が患者となってはじめて病気と向き合うことの大変さに気づきます。また、命の尊さや人生の意味を考えるようになったといいます。
リレーフォーライフなどの活動を通して出会った人たちによって励まされたり、支え合ったりすることができた坂下氏。著者は、これらの活動を通して出会った人たちの人生の中に生きるヒントが隠されていると話します。医師であり、そしてがんになったからこそわかる人生で大切なものについて書かれた一冊です。
執筆者 美奈川由紀 看護師・メディカルライター
看護師の経験を活かし、医療記事を中心に執筆
西日本新聞、週刊朝日、がんナビ、時事メディカルなどに記事を執筆
著書に「マンモグラフィってなに?乳がんが気になるあなたへ」(日本評論社)がある
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