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更新日:2020/12/30

〈いのち〉とがんー患者となって考えたこと

『〈いのち〉とがんー患者となって考えたこと』書評

著者名:坂井 律子
出版社:岩波書店
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がんの中でも難治がんといわれている膵臓がん。同著は、そんな膵臓がんと診断された坂井律子さんによって書かれました。坂井さんはテレビ局の制作者。長年、人に伝える仕事に携わってこられました。2016年に膵臓がんの告知を受けて手術を行った後、再発、再手術、再々発を経験。その間には抗がん剤治療による激しい副作用とも向き合ってきました。そろそろ復帰と考えていた頃に再発を二度告げられ、休職期間は2年に及んでいます。伝える側だった著者が患者となって感じたこと、考えたこと、勉強したこと、好奇心がかき立てられたこと、感謝したことなどについて書かれた記録です。

同著は、抗がん剤治療を受けるなか休薬期間など体調が良い数日を使って書き連ねられました。体調が持つか、気力は続くのか、読む人がいるのか、そんな葛藤を抱きながらも、もう時間がないも知れない。そんな諸々の思いのなかで書かれた一冊です。

作られていく膵臓がんのイメージ

著者の坂井律子さんが膵臓がんと診断されたのは2016年のことでした。仕事で医療関連番組の制作にも携わったことのある著者の頭にまず浮かんだのは、「膵臓がんはマズイ」ということでした。そして次に思ったのが「息子でなくて良かった」ということ。よく言われる「頭が真っ白になる」ことはなく、疑いと告げられた夜から膵臓がんのことについて情報収集がはじまりました。

国立がんセンター「がん情報サービス」のサイトによると、膵臓がんは多くが膵管にできること、膵臓は胃の影にあるため、がんを見つけ難いことなどが書かれていました。おそるおそる見た5年生存率は9%と、ほかのがん種と比べても格段に低いことがわかりました。

がんと告げられ入院後すぐにお見舞いに来てくれた同僚が手渡してくれたのは「アポロ13号」のDVDでした。坂井さんが「どうして?」と聞くと彼は真面目な顔をして「絶対絶命からの生還」と答えたのだといいます。1週間後に手術を控えていた坂井さんは、当然のように手術は成功して再発もしない。絶対に元の生活に戻れるものと信じて疑いもしていませんでした。でも、そのDVDを手にしてはじめて、自分は絶対絶命なのだと改めて痛感するのです。

「がんの王様 10年生存率5% 膵臓がんを生き抜く術」

健康な時には意識していなかった週刊誌の広告文にも敏感に反応するようになりました。あたりを見回してみると、活字やメディア、映画やドラマでは「膵臓がん=死に至る病」というイメージが作り出されています。そして、「死の象徴」である膵臓がんが自分に向かってきているという現実に直面するのです。

死と直面して考えること

坂井さんが受けた膵頭十二指腸切除術は、患者に負担のかかる手術として知られています。術後に行われた、再発予防を目的とした抗がん剤治療では副作用である下痢と食欲不振に苦しみました。下痢は、ひどい時には10分とベッドで休むこともできないこともありました。健康な時には55キロあった体重は38キロまで減少し、下痢による脱水と食欲不振で入院したこともありました。

膵臓がんに有効とされている抗がん剤は、現在のところ3種類です。著者は2018年の2月から3種類目の抗がん剤治療を行っています。治療目的は多発転移の制御と延命。

がんは最初の告知の時に否応なく「死」を意識させられると著者は述べています。その中でも生存率の低い膵臓がんでは恐怖から逃れることはできず、「死」を意識する日々。さまざまな哲学的な書籍にも目を通しました。でも死を受容することはできません。そして著者は考えました。死を受容しなくてもいいのでは、と。おそらく、最後の最期まで死を受け入れる気持ちになることはできないだろう。死に直面した著者の切実な生に対する思いが綴られています。

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