更新日:2018/01/31
LC-SCRUM-Japan、血液を用いた遺伝子解析を開始
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院は、全国肺がん遺伝子診断ネットワーク「LC-SCRUM-Japan」において、2017年12月より、肺がんの患者を対象として、血液を用いた遺伝子解析を開始した。肺がんの患者から血液を採取し、血液中にわずかに存在するがんの遺伝子を検出し、その遺伝子の変化を調べるものである。
近年、遺伝子解析技術の進歩により、肺がんの原因となる様々な遺伝子変化が相次いで発見され、これらの遺伝子変化を有する肺がんには、対応する分子標的薬の治療効果が非常に高いことが分かっている。しかし、これら複数の遺伝子変化を、異なった方法で個別に検査した場合、それぞれの遺伝子変化を同定するまでに多くの時間や多くの腫瘍組織量が必要になるため、解析できる遺伝子の数に限界がある。そこで、一度の解析で同時に複数の遺伝子変化を検出できる解析技術の臨床応用が望まれている。また、薬剤が効かなくなる耐性遺伝子の出現も明らかになっており、遺伝子の変化を経時的に簡便に検出できるような検査手法の開発が求められている。一方、遺伝子解析のために、内視鏡や針などを使って肺がんの腫瘍組織を採取するのは、患者の負担が大きく、繰り返し行うのは困難である。このような現状から、患者の負担を軽減しながら、短時間で的確に遺伝子変化の状態を把握し、治療薬の選択に活用できるような遺伝子解析法の開発が望まれている。
そこで、肺がん遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」では、米国Guardant Health(ガーダントヘルス)社が開発した高感度な遺伝子解析技術Guardant360(ガーダントスリーシックスティ)を用いて、肺がん患者の血液を用いた遺伝子解析法の有用性を評価する研究を2017年12月より開始した。
この研究には、血液から73種類の遺伝子の変化を一度に測定できる新しい遺伝子解析技術 「Guardant360」を導入した。従来は、がんの組織を用いて遺伝子解析を行っていたが、今回の研究では、非小細胞肺がん患者の血液を用いて遺伝子解析を行う。約2000名の非小細胞肺がんの患者を対象として、肺がんの組織と血液の遺伝子解析結果を比較することで、血液を用いた遺伝子解析法の評価を行う予定だという。この研究では、患者から採取した血液40mlのうち20mlを米国Guardant Health社へ搬送し、遺伝子解析を行う。遺伝子解析の結果は約2週間で判明する。なお採取した血液のうち、残りの20mlは将来の研究のために保存する。さらに一部の患者では、治療中の経時的な遺伝子の変化と、治療抵抗性となる耐性遺伝子の出現を調べる目的で、病状が進行した際に追加で血液を採取して(最大3回まで)、繰り返し遺伝子解析を行う予定である。
今後の展望としては、本研究により血液を用いた遺伝子解析の有用性が示された場合、現在の組織を用いた遺伝子解析結果に基づいた最適医療に代わる近未来型医療として、血液の遺伝子解析に基づいた最適医療を実現することが可能となるであろう。遺伝子変化を調べる手段として、血液を用いることで、肺がん患者の負担を軽減することが可能となり、更に高感度の遺伝子解析技術を導入することで、より正確で精密な遺伝子診断を短時間に得ることが可能になると考えらる。
(Medister 2018年1月22日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター LC-SCRUM-Japan、血液を用いた遺伝子解析を開始
低侵襲な遺伝子検査法で肺がん最適医療の実現を目指す