更新日:2017/12/27
『コウノドリ13・14巻』子宮頸がん編
子宮頸がんは30~40代で多く見つかるがんですが、20代でも見つかるケースがあります。妊娠中に見つかった場合、赤ちゃんの成長と母親の治療のどちらを優先するかで非常に難しい選択を迫られます。この選択に向き合う夫婦と産婦人科医たちの様子を描いたのが、『コウノドリ』の13・14巻に収録されている「子宮頸がん」編です。
母体か、胎児か
『コウノドリ』は『週刊モーニング』で連載中の漫画で、主人公である産婦人科医の鴻鳥(こうのとり)サクラを中心に、産婦人科を訪れる妊婦やその家族の様子を描いています。無痛分娩や妊娠高血圧症など、産婦人科医が直面するテーマについて数話をかけて描くスタイルです。
「子宮頸がん」編では、妊娠を機に子宮頸がんの検診を受け、最初のスクリーニング検査で初期のがんの可能性あると言われた妊婦が登場します。その後、子宮頸部の病変を採取するコルポスコピー検査を受けるのですが、がんの広がりは大きく、子宮頸部を円錐形に切除する「円錐切除」という手術を受けて病理検査することになります。
しかし、円錐切除でもがんのすべてを取り除くことはできないほどがんが浸潤しており、ステージはIb期でした。このステージでは、子宮と周辺組織を切除する広汎子宮全摘術という手術が必要になります。化学療法や放射線療法は、胎児への影響があるため行うことができません。
この時点で女性は妊娠19週目。出産を希望する場合、広汎子宮全摘術は出産してからでないと行えないため、いつ帝王切開をするかが問題となります。がんの進行が正確にわからない状態で、母親のことを考えるとできるだけ早く帝王切開をして広汎子宮全摘術を行う必要があります。しかし、早産は赤ちゃんに後遺症が残りやすいというリスクがあり、できるだけ母親の体内で赤ちゃんを長く育てるほうがよいという意見もあります。主人公の鴻鳥は母親の体を優先して28週での帝王切開を提案しますが、同僚の四宮は赤ちゃんを優先して32週まで待つべきであると対立します。妊婦と夫はどう決断するか……ということが、このエピソードの要となります。
辛い内容ではありますが、妊婦と夫の葛藤だけでなく、周囲の人の支えも含めて丁寧に描かれています。漫画らしく、登場人物たちの内面を深く描いており、この点は他の書籍とは一線を画す特徴といえます。
ワクチン接種率と検診率の低さ
本作では終盤、医療スタッフが子宮頸がんワクチンについて語り合う様子が描かれています。子宮頸がんは毎年約1万人が罹患しており、そのうち約3000人が亡くなっています。子宮頸がんはHPVというウイルスによって起き、ワクチンのある唯一のがんでもあります。ワクチンを接種すれば、そのうちの7割の命が救われると考えられています。
日本では2009年にワクチンが承認され、一時期は13歳の初回接種率は約70%にもなりました。しかし直後から、ワクチン接種後に慢性的な痛みや運動障害などの症状が現れたと大々的に報じられ、国によるワクチン接種の積極的勧奨は取り止めになったまま、現在の接種率は1%以下にまで低下しています。先進国でワクチン接種がほとんどされていないのは日本だけであることなど、現実の産婦人科医たちを代弁する会話がされます。鴻鳥もはっきりと「接種の勧奨を再開するべきだと思う」と言います。
この様子は、連続ドラマ『コウノドリ』(TBS系列)でも描かれ、ドラマではさらに、世界保健機関(WHO)が現在の日本の勧奨中止を非難していることにも触れました。2017年12月には、「ワクチン接種後の症状はワクチンの副作用である」という主張に疑問を呈する記事を書き続けた医師の村中璃子氏が、科学的知見を広めた個人に贈られるジョン・マドックス賞を受賞しました。ワクチン接種の勧奨再開については今後、議論される可能性があります。
ワクチンの問題だけでなく、子宮頸がんの検診の低さにも触れています。欧米では全年齢で約80%の検診率に対して、日本の20代の検診率は約20%という現実を、鴻鳥は悲しげに話します。
温かいタッチで読みやすい内容ですが、子宮頸がんの治療法、そしてワクチンや検診率の問題について深く切り込んだ傑作です。
書籍プレゼント
がん治療.comでは、今回紹介した書籍を抽選で3名様に無料でプレゼントします。
下記の募集概要をご確認のうえ、ご応募ください。
応募頂いた方には、今後メールマガジンなどのご案内をさせて頂く場合がございます。
こちらのキャンペーンは終了いたしました。