甲状腺がん (がんの種類)
甲状腺がんとは
甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」(甲状腺軟骨先端)のすぐ下にある重さ10~20g程度の小さな臓器で、全身の新陳代謝や成長の促進にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌している。羽根を広げた蝶のような形で、右葉と左葉からなり、気管を取り囲むように位置している。
甲状腺の病気は、男性よりも女性に多く見られ、これらは腫瘍ができるもの(腫瘍症)とそうでないもの(非腫瘍症:甲状腺腫、バセドウ病、慢性甲状腺炎[橋本病]など)に分けられる。さらに甲状腺の腫瘍のうち大部分は「良性」で、がんではない。しかしながら、中には大きくなったり、ほかの臓器に広がる「悪性」の性質を示す腫瘍があり、これを甲状腺がんという。甲状腺がんでは、通常、しこり(結節)以外の症状はほとんどないが、違和感、痛み、飲み込みにくさ、声のかすれ(嗄声)などの症状が出てくることがある。このため、甲状腺の病気が甲状腺がんかどうかは、診察や検査をもとに詳しく調べていくことになる。。
甲状腺がんは、1年間に人口10万人あたり7人前後の割合で発症するとされている(地域がん登録全国推計値)。組織の特徴(組織型)により、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんに大きく分類されている。また、甲状腺から発生するリンパ系のがんとして悪性リンパ腫を加えて分類される場合もある。これらは悪性度(広がりやすさ、ふえやすさ)、転移の起こりやすさなどにそれぞれ異なった特徴があり、治療費も大きく異なる。
乳頭がん
乳頭がんは甲状腺がんの中で最も多く、甲状腺がんの約9割がこの種類に分類される。40歳から50歳代の比較的若い女性に多く、極めてゆっくり進行する。リンパ節への転移(リンパ行性転移)が多く見られるが、リンパ節の切除(リンパ節郭清)を含めた手術を中心とした治療が行われ、予後(治療後の経過)がよいがんとされている。生命にかかわることはまれだが、一部の乳頭がんでは、悪性度の高い未分化がんに種類が変わることがある。高齢で発症するほど悪性度が高くなりやすいと考えられている。
濾胞がん
甲状腺がんのうち、約5%がこの種類のがん。乳頭がんよりやや高齢者に多い傾向があり、血液の流れに乗って肺、骨などの遠くの臓器に転移(血行性転移または遠隔転移)しやすい性質がある。治療後の経過は比較的よいがんとされているが、血行性転移した場合の予後はあまりよくない。
髄様がん
髄様がんは、傍濾胞細胞(カルシウムを調節するカルシトニンと呼ばれるホルモンを分泌する細胞)ががん化したもので、甲状腺がんの約1~2%に見られる。乳頭がんや濾胞がんよりも症状の進行が速く、リンパ節や、肺や肝臓への転移を起こしやすい性質がある。約2~3割は遺伝性(家族性)に起こるため、家族も含めて検査が行われることがある。
未分化がん
未分化がんは、甲状腺がんの約1~2%に見られるがんであるが、進行が速く、甲状腺周囲の臓器(反回神経、気管、食道など)への浸潤(広がり)や遠くの臓器(肺、骨など)への転移を起こしやすい悪性度の高いがん。特に高齢者に多い種類のがん。
悪性リンパ腫
甲状腺の悪性リンパ腫は、血液・リンパの腫瘍である悪性リンパ腫が甲状腺にできたもの。慢性甲状腺炎(橋本病)を背景にしている場合が多く、中でもその経過が長期にわたる高齢者に多いとされている。甲状腺全体が急速に腫れたり、嗄声(声がれ)や呼吸困難が起こることがある。
甲状腺がんの検査と診断
甲状腺腫瘍の診察の基本は触診である。自覚症状がほとんどないため、健康診断やほかの病気で診察を受けるときに、首の触診や検査で、甲状腺がんが疑われることが少なくない。ただし、触診だけでは腫瘍が良性か悪性かの判断ができないことが多いため、血液検査、超音波(エコー)検査、穿刺吸引細胞診を行う。腫瘍やがんの広がりを調べるためには、CTやシンチグラフィー検査を行い、MRI検査は必要に応じて選択される。
診察(問診、視診・触診)
症状、病歴、家族歴、過去に放射線の被曝がなかったかどうかなどについて、まず問診する。その後、甲状腺の大きさ、腫瘍の有無と大きさ、硬さや広がりなどを調べるために、甲状腺の周辺部を観察(視診)したり、直接触って(触診)診察する。首の周りリンパ節の触診も行う。
画像検査(画像診断)
- 超音波(エコー)検査
- 超音波を体の表面に当て、臓器から返ってくる反射の様子を画像にする検査。甲状腺の大きさや、内部にあるしこりの性質を観察し、周囲の臓器との位置関係やリンパ節への転移の有無を調べる。
- CT、MRI検査
- CTではX線を、MRIでは磁気を用いて体の内部を描き出し、周辺の臓器へのがんの広がりや転移の有無を調べる。いろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影することで、より詳しい情報を得ることができる。ただし、MRI検査は時間がかかり、その間に呼吸の影響で甲状腺周辺部が動いて画像がぼけてしまうことがあるため、甲状腺の検査では必要に応じて選択される。造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがある。ヨードアレルギーなどの経験がある人は医師に申し出る必要がある。
- シンチグラフィー検査
- 放射線物質を服用、または注射して行う検査。放出される微量の放射線を専用の装置で検出し、画像にする。甲状腺疾患では甲状腺シンチグラフィーと腫瘍シンチグラフィーが用いられ、甲状腺のしこりやがんの再発の有無、甲状腺の機能を調べるために行う。
病理検査(病理診断)
- 穿刺吸引細胞診
- しこりがある場合に、それがどのような細胞からできているかを詳しく調べるために行う。甲状腺に細い注射針を刺して、しこりから直接細胞を吸い取り、顕微鏡で観察する。しこりが良性であるか悪性(がん)であるかを判定するには最も優れた方法である。しこりの大きさにもよるが、多くの場合には超音波(エコー)の画像を見ながら直接細胞を採取する方法で行われる。
- 血液検査、腫瘍マーカー検査
- 甲状腺がんの検査は、病理診断や画像診断を組み合わせて行うが、必要な場合は血液検査によって、甲状腺ホルモンや腫瘍マーカー(がんの存在により異常値を示す血液検査の項目)を調べる。甲状腺がんの中でも髄様がんの場合には、特にカルシトニン(甲状腺から分泌されるホルモン)やCEAなどの腫瘍マーカーの値が上昇する。しかし腫瘍マーカーは、がんになると必ず上昇するとは限らないため、単独でがんかどうかを確定できる検査ではない。たとえば、乳頭がんや濾胞がんの検査では、サイログブリン(甲状腺から分泌されるたんぱく質の中にだけある物質)の値は、腫瘍が良性であっても上昇するため、それだけで診断に有用とはいえないが、甲状腺をすべて摘出した後の経過観察には、再発の有無を調べるために有用な場合がある。
甲状腺がんの病期(ステージ)
病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいう。説明などでは、「ステージ」という言葉が使われることも多い。病期には、ローマ数字が使われ、甲状腺がんでは、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA、ⅣB、ⅣC)に分類されている。病期はがんの大きさだけではなく、がんがどこまで広がっているか、リンパ節や遠くの臓器への転移があるかどうかで決まる。
甲状腺がんでは、がんの種類、進行の程度によって治療法が異なるため、組織型や病期を正確に把握することがとても重要である。組織型や病期を知ることで、これからの治療の目安について大まかに予測することができる。
乳頭がん、濾胞がんの病期は、年齢によって異なる。45歳未満の場合には、がんの大きさ、広がり、リンパ節転移の有無には関係なく、遠くの臓器へ転移があるかどうかでⅠ期、Ⅱ期に分類される。45歳以上の場合は、大きさ、広がり、リンパ節や他の臓器への転移の有無によって病期が決まる。
~表が2つ~
また、未分化がんははじめからⅣ期に分類される。
~表が1つ~








