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更新日:2020/06/08

大腸がん・乳がん・前立腺がんの遺伝学的検査の有効性を検証

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの劉暁渓基礎科学特別研究員(研究当時)、桃沢幸秀チームリーダー、東京大学大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授らの共同研究グループは、日本人の大腸がん・乳がん・前立腺がん患者らの全ゲノムシークエンス解析を行い、各がんの遺伝学的検査に対する有効性を検証した。

共同研究グループはまず、バイオバンク・ジャパンで収集された早期発症の大腸がん患者196人、乳がん患者237人、前立腺がん患者215人、対照群389人の合計1,037人のサンプルについて全ゲノムシーケンス解析を行った。次に、NCCNガイドラインに各疾患で遺伝学的検査の対象として指定されている遺伝子(大腸がん:12遺伝子、乳がん:11遺伝子、前立腺がん:9遺伝子で合計20遺伝子)について、病的バリアントを保有するかどうか解析した。その結果、1,037人中63人(5.9%)に各個人に1個ずつの病的バリアントが見つかった。そのうち、大部分の40個(63.5%)は一塩基バリアント(ゲノム配列の1塩基の違い)、17個(27.0%)は挿入・欠失であり、残り6個(9.5%)は数千塩基以上のゲノム配列の欠失であった。また、これらの病的バリアントの1/3にあたる21個は、国際的データベースであるClinVar、BRCAexchange、InSiGHTのどれにも含まれない、新しい病的バリアントであった。

さらに、各々のがんについて、どのような患者が病的バリアントを保有しているかを調べた。その結果、病的バリアント保有者の割合が最も高いのは乳がん14.8%(35人)、続いて大腸がん9.2%(18人)、前立腺がん3.7%(8人)の順であり、これらの割合は対照群0.5%(2人)に比べて有意に多いことが分かった。この結果は、欧米人集団で行われた研究結果と類似しており、NCCNガイドラインで指定されたがんの遺伝子を解析することが、日本人集団にも有用性を持つことが示された。

次に、病的バリアントが診断年齢やがん家族歴に関連するかどうかを調べた。その結果、病的バリアント保有者/非保有者の平均診断年齢は、大腸がんでは33.9歳/39.3歳、乳がんでは33.7歳/35.6歳であり、大腸がん・乳がんの保有者は非保有者よりも早期に診断されていることが分かった。また同様に、病的バリアント保有者/非保有者の同じがん家族歴を持つ割合は、大腸がんでは64.7%/23.3%、前立腺がんでは50.0%/13.0%であり、大腸がん・前立腺がんの保有者は非保有者よりも同じがん家族歴を持つ割合が高いことが分かった。また、前立腺がんの保有者/非保有者では、胃がん家族歴を持つ割合が50.0%/5.9%であり、前立腺がんの病的バリアント保有者は胃がん家族歴の割合が高いことが分かった。

さらに、各々のがんの病的バリアントが見られた遺伝子の特徴を調べた。その結果、大腸がんでは、MSH2、MLH1、MSH6などのミスマッチ修復遺伝子に病的バリアントを保有する患者が11人(5.6%)、家族性腺腫性ポリポーシスの原因遺伝子であるAPCに病的バリアントを保有する患者が6人(3.1%)確認された。また、数千塩基以上のゲノム配列の欠失が6人(3.1%)で確認され、そのうち4個がMSH2、MLH1などのミスマッチ修復遺伝子上にあり、2個がAPC遺伝子上にあった。一方、乳がんでは、BRCA1またはBRCA2に病的バリアントを保有する患者が26人(11.0%)確認され、乳がん患者の病的バリアント保有者(35人)のうち74.4%を占めていた。前立腺がんでも、1個の病的バリアントを除く7個がBRCA1またはBRCA2で同定された。

最後に、NCCNガイドラインで指定された遺伝子以外にも、遺伝学的検査を行うべき遺伝子がないかを検証するために、がんの原因となる変異が報告されている遺伝子をまとめたCGCデータベースに登録されている遺伝子から合計98個の遺伝子(大腸がん:86遺伝子、乳がん:87遺伝子、前立腺がん:89遺伝子)を選択し解析を行った。その結果、1,037人中42人(4.1%)に各個人1個ずつの病的バリアントが見つかった。そして病的バリアント保有者の割合は、乳がん4.3%(10人)、大腸がん4.1%(8人)、前立腺がん7.9%(17人)であり、そのうち前立腺がんについては対照群1.8%(7人)と比べて有意に多く検出されたことが分かった。また、前立腺がんの患者のうち、DNA修復に関連する遺伝子に病的バリアントを保有する患者が4.1%(9人)と多いことが分かった。これは、前立腺がんではNCCNガイドラインの指定遺伝子以外の遺伝子も検査する必要があることを示している。

本研究の成果により、NCCNガイドラインで指定された遺伝子が日本人集団にも有用であることや、前立腺がんにおいて日本人の遺伝学的検査の対象として拡張すべき遺伝子の候補が示された。他のがん種についても、同様に大規模に解析を行うことで、日本人に合った遺伝学的検査の確立が期待される。
(Medister 2020年6月8日 中立元樹)

<参考資料>
理化学研究所プレスリリース 大腸がん・乳がん・前立腺がんの遺伝学的検査の有効性を検証 -前立腺がんはNCCN指定以外の遺伝学的検査の必要性も-

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