第3回 豊富な経験に基づいた胃がん・大腸がん治療


練馬光が丘病院
外科系診療部長 兼 外科部長
■専門分野:消化器一般外科/食道・胃外科/内視鏡外科
Q&A
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Q 医学部の学生の頃から外科医を目指していたとのことですが?
A 当初から外科医になりたいという思いがありました。母校である自治医科大学は僻地医療を行っていましたので、臨床に関しては幅広い疾患に対応できなければならないというプレッシャーがありました。僻地医療では癌以外にも心筋梗塞や脳出血といった急性の病気の診療にあたることもありましたが、しばしは、遠方の大学病院などに転送をしなくてはなりませんでした。それらの経験から、やはり手術や処置といった治療を行う手技の習得が必要性を感じさまざまなトレーニングを重ねてきました。僻地だと大学病院まで行くのが難しいという高齢者も少なくありません。そういった高齢者が大学病院に行かずとも、近くの病院で治療ができるよう、自分自身が技術を身につけておきたいという思いがありました。 -
Q さまざまな領域での経験が役に立っているのですね。
A はい。それは非常に役に立っていると思います。私の専門領域は上部消化管ですので、大学にいる時は胃と食道の手術を数多く行っていました。現在では、大腸癌の患者も増加傾向で、その手術も多く行っています。研修医や専修医の時代には、呼吸器外科や心臓血管外科の手術、消化管出血の処置などあらゆる外科的領域を経験することができました。それによって解剖がよく理解できたと思います。当院においては、胃の手術の半数以上は腹腔鏡を用いて行っています。胃の周囲には様々な臓器が3次元で複雑に密着しています。特に腹腔鏡下手術の場合は、狭い領域の臓器しか経験していなければ、この構造を理解することも難しかったと思いますので、さまざまな分野の経験ができたことは非常によいトレーニングになったと思っています。 -
Q 地域柄、高齢の患者さんが多いとのことですが、手術を行う上でのリスクは高まるのでは?
A 一概に年齢だけでリスクを判断することはできません。高齢の方でも身体的に元気な方もいれば、そうでない方もいるからです。つまり、手術に対するリスクは暦年齢だけで決まるわけではなく、最終的には肉体年齢で評価します。肉体年齢が高い人に対しては、術前の検査を通常よりも多くするなどして慎重にリスクの評価を行います。その結果を踏まえて循環器科や脳神経科の医師と相談します。例えば、麻酔をかけることで寝たきりになるなど手術によるベネフィットが得られない場合には、手術は行いません。手術をしないという決断も選択肢のひとつです。正しく判断するためにも術前の評価は非常に重要なのです。 -
Q 貴院では腹腔鏡手術を多く行っているとのことですが、高齢者も受けることができるのですか?
A 腹腔鏡による手術は、開腹術と比べて手術時間が長くなるため、一時期、問題視されたことがありました。しかし、一定時間内に手術を終えれば、少ない出血量で、なおかつ傷跡も小さいため、患者さんにとってはからだへの負担が少ない術式です。低侵襲であるため術後の回復が早いということは学会のデータなどからも明確に示されていますので、条件を満たしている場合には高齢者に対しても腹腔鏡による手術を実施するようにしています。 -
Q 腹腔鏡を受けるための条件とは何ですか?
A まず大切なことは手術を受ける上での安全です。それはさきほどお話した手術に対するリスクということになるのですが、高齢者の場合、心臓や肺が悪いということも少なくありません。腹腔鏡手術を行うにあたっては、からだが手術に耐えられるかどうかということが非常に重要になります。つまり、全身麻酔に耐えられるかという点について評価を行います。そして次に大切なことは、腹腔鏡による手術が腫瘍学的にみて開腹術と同等の治療効果を得られるということです。要するに、術者の腹腔鏡手術の技術が、学会が推奨しているレベルに達するようにきちんとしたトレーニングを受けることが非常に重要です。当院では大腸がんの約80%に対して腹腔鏡手術を行っています。胃の場合は、約50%で、腹膜播種などを起こしやすい臓器であるということもあって慎重に対象を選びながら行っています。その辺は、先進的に導入している大学病院よりも適応範囲を狭くして慎重に対応しているというのが現状です。 -
Q 腹腔鏡手術で難しい点は?
A やはり解剖をいかにイメージできるかという点だと思います。臓器によっても難易度は異なります。例えば、虫垂炎、胆石、大腸、そして肝臓や膵臓となるに従って高い技術が求められます。つまり、一次元、二次元、三次元とイメージが複雑化するわけです。特に肝臓などは三次元をイメージしなければ手術はできません。また一方で、腹腔鏡手術を行う上で大切なことは視野の展開です。腹腔鏡手術が上手くいくかどうかのカギは、助手がいかにして術者に術野を展開できるかどうかです。つまり助手とのコラボレーションが非常に重要だということです。当院では術前にカンファレンスを行って、チームで事前に術野の展開の仕方などを決めておきます。こういったことは腹腔鏡手術の安全性を確保するためにもとても大切なことです。神業的な手術をする必要はなく、標準的な外科医であれば誰もができる方法を取り入れること、安全にできることが重要なのです。 -
Q 治療に関してほかに貴院の特徴はありますか?
A 薬物療法に関しては外科医が行っているということです。がん専門施設の一部では腫瘍内科医が行っていることもありますが、国内の一般病院ではまだ少ないのが現状だと思います。しかし当院では、手術から抗がん剤投与に至るまでひとりの医師がトータル的に診ているので、もし再発した場合においても、一部の患者さんについてはターミナルまで継続して診るようにしています。患者さんの立場に立って考えてみると、そのほうがいいのではないかと個人的には思っています。最近ではホスピスなどもありますが、実際に入れるのは一部の人だけというのが現状なのではないでしょうか。 -
Q 今後の展望について教えて下さい。
A がんに関していえば、胃がんや大腸がん、肺がんや乳がんといった頻度の多いがんについては、遠くに行かなくても地元で治療できるというクオリティを確保していきたいと思っています。在宅医療に向けても、現在リハビリと緩和ケアチームを立ち上げる準備をしているところです。地域に根ざした医療サービスを展開していくことが当院の役割だと思っています。
- 略歴
- 練馬光が丘病院 外科系診療部長 兼 外科部長。自治医科大学卒業。日本外科学会(指導医、専門医)。日本消化器外科学会(指導医・専門医)。日本内視鏡外科学会(技術認定医)。日本がん治療認定機構(認定医)。日本食道学会(食道科認定医)。日本胃癌学会。日本癌治療学会など、多数。