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新規ゲノムシークエンス技術を駆使したがんゲノム解析

近年、がん細胞の持つ遺伝子全体(ゲノム)の解析が世界的に急速に進んでいる。がんの遺伝子変異を網羅的に調べて診断や治療に役立てるクリニカルシークエンスも広く行われるようになった。我が国でも、昨年度、がんゲノム医療中核拠点が全国に設置された。日常の診療でがんゲノムのDNA配列を解読して、その変異パターンに最適な治療法を選択する、いわゆる最適化医療が一般的に行われるようになっている。実際、ここ5年の間に、基礎医学、臨床医学におけるがんの理解とその治療法は飛躍的に進歩している。しかし、その一方で、ゲノムを調べても、その異常がよく分からない症例が依然として一定の割合で存在する。

今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鈴木穣教授らのグループは、国立がん研究センターとの共同研究により、これまでの方法では検出できなかったゲノムの異常の発見を試みた。この目的に、従来法よりもその塩基配列を長く解析することができるナノポアシークエンサーを活用した新しい手法を開発した。この新しい手法では、1つ1つの塩基配列の解読精度はそう高くはない。その代わりに、現在使われている方法に比べて、100倍の長さのゲノム配列を解読することが可能である。この新規の手法を用いれば、比較的広い範囲で起こるゲノム異常を俯瞰的に解析できる。実際に、本研究グループでは、この新しいゲノムDNA解読手法を肺がんの培養細胞や国立がん研究センターの肺がん(非小細胞肺がん)検体のがんゲノム解析へと用いた。その結果、これまでのシークエンス解析では見出せなかったような非常に複雑な構造変化を伴うゲノムの異常があることを見出した。

例えば、STK11という遺伝子では、ゲノム配列のつなぎ方が4か所にわたって壊れているような複雑なゲノムの構造上の異常が見出された。ただし、このゲノム異常ではつながり方こそ異常であるが、1つ1つの塩基配列自体をみるとそのすべてが正常である。実際、従来の1つ1つの塩基を正確に解読するシークエンス解析ではこのような変異を見出すことはできなかった。さらに詳細な細胞生物学的解析を進めたところ、その細胞ではこの遺伝子異常が中核となった細胞内シグナルの異常が起こっていた。この細胞では確かにSTK11遺伝子が異常を起こしており、それは従来の方法では検出できなかったことが明らかになったのである。この遺伝子はがん患者の治療を考える上で非常に重要な遺伝子である。具体的には、この遺伝子は、近年注目が集まる新規の抗がん剤(免疫チェックポイント阻害剤)の効果に関連している、ということが示されている(Rizvi et al. 2018 J Clin Oncol.; Skoulidis et al. 2018 Cancer Discov.)。STK11遺伝子が変異しているがんではこの新規の抗がん剤が効きにくく、この異常が見出されたがん患者は別の治療法を選択する必要がある可能性がある。

この他にも、そもそも、従来の解析手法ではなぜその患者ががんになっているのか、その原因となるゲノム異常が分からない、という例が存在する。これらの症例についても新規の手法を用いたがんゲノムの解析が進めば、そのメカニズムが明らかになり、新しい治療薬の開発につながると考えられる。今回、直接解析が行われたのは肺がんであったが、他の多くのがん種で、今回の手法を用いて今までに見いだされていなかったゲノム異常が見つかれば、より多くのがん患者に対して、よりよい治療法を結びつけることができると期待される。
(Medister 2020年10月5日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 新規ゲノムシークエンス技術を駆使したがんゲノム解析 ~新しい治療法の探索に向けて~

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