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日本人の家族性膵臓がん関連遺伝子を解明

大阪大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授(前国立がん研究センター研究所ユニット長)、東北大学大学院医学系研究科の古川徹教授(前東京女子医科大学医学部教授)、国立がん研究センター、東京女子医科大学、杏林大学、みずほ情報総研株式会社の研究グループは、日本における家族性膵臓がんの関連遺伝子を明らかにした。

家族性膵臓がんは、親子または兄弟姉妹に2人以上の膵臓がん患者がいる家系の方に発症する膵臓がんである。米国・Johns Hopkins大学で発足した登録制度「National Familial Pancreatic Tumor Registry(NFPTR)」では、第一度近親者(父母、兄弟姉妹、子供)に膵臓がん発症者がいる家系とそうでない家系を比較すると、前者で10倍近く膵臓がん発症率が高いことが2004年に報告されている。 その後に欧米で疫学調査が進み、欧米では膵臓がんの約5%から10%は、家族性であることが知られている。これまで、谷内田教授らは疫学調査において、日本人1,197人の膵臓がん患者の家族歴を調査し、88人(7.3%)で第一度近親(父母、兄弟姉妹、子供)に1人以上の膵臓がん患者がいることを報告してきた。欧米ではその原因となり得る関連遺伝子の解析が積極的に行われてきたが、人種の異なる日本を含むアジアにおいては網羅的な解析は行われていなかった。

本研究では、81人の家族性膵臓がん患者を対象に生殖細胞系列の全エクソーム解析を行った。16%の患者において、欧米の家族性膵臓がん研究で関連の見つかった遺伝子(ATM、BRCA2、MLH1、MSH2、MSH6、PALB2、BRCA1、TP53)に病原性のある生殖細胞系バリアントを認めた。また、これまでに報告のない遺伝子(ASXL1、ERCC4、TSC2、FAT1やFAT4)に81人のうち2人以上で病原性のある生殖細胞系バリアントを認めた。ATM、BRCA1/2、PALB2の変異を有するがんは、PARP阻害剤(分子標的薬剤の一つ)やプラチナ製剤が効果を示すことが知られている。昨年、世界規模の臨床研究でBRCA1/2の病原性のある生殖細胞系バリアントを有する膵臓がん患者におけるPARP阻害剤の効果が報告された(Golan T et al. N Engl J Med 2019)。家族性膵臓がんにおいて、日本でも原因遺伝子によっては、がん遺伝子検査を行うことによって治療選択に有益な情報が得られる可能性がある。 また、膵臓がんの体細胞系遺伝子変異として高頻度にみられるがん抑制遺伝子のSMAD4遺伝子に、病原性のある生殖細胞系バリアントが1人に見つかった。さらに、本患者のがん組織では、体細胞系の異常としてSMAD4遺伝子の欠失がみられ、免疫組織化学染色でSmad4タンパクの欠損(つまりSMAD4の2-hit)を確認した。これらの報告のない遺伝子バリアントががんの発症や進行に関係しているかを明らかにするためには、今後、日本における大規模コホート研究、細胞株や動物等を用いた実証試験が必要となる。

一般に、家族性も含む通常型膵臓がんでは約90%から95%でKRAS遺伝子の体細胞系変異を認める。しかし、本研究の家族性膵臓がん患者のがん組織におけるKRAS遺伝子の体細胞系変異は、81%と低率であった。KRAS変異のない患者では、BRCA1、MLH1、SMAD4の病原性のある生殖細胞系バリアントやARID1Aの体細胞系変異を認めた。一部の家族性膵臓がんは、通常の膵臓がんとは異なる発症機序で発がんしている可能性が示唆された。 さらに、若年発症(40歳以下)の膵臓がん患者8人の全エクソーム解析を行ったところ、MSH2、POLE、TP53やFAT4遺伝子に、病原性がある、あるいはおそらく病原性と推定される、生殖細胞系バリアントを認めた。

本研究成果により、日本においても欧米と同様に家族性膵臓がん患者には、特定の遺伝子に病原性がある生殖細胞系バリアントの存在が明らかとなった。がんゲノム医療が始まったが、家族歴の情報は重要である。今後、膵臓がん患者の「がん遺伝子パネル検査」において、本研究で発見された遺伝子などの生殖細胞系バリアントが見つかってくることがあると考えられる。膵臓がんの家族歴のある膵臓がん患者とその担当医師は、特定の遺伝子に病原性がある生殖細胞系バリアントが見つかる可能性を、十分に理解した上で「がん遺伝子パネル検査」を行うことが重要だと考えられる。一方で、家族性膵臓がんにおいては、関連する遺伝子によっては、特定の抗悪性腫瘍剤の効果が期待される可能性がある。
(Medister 2020年9月23日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 日本人の家族性膵臓がん関連遺伝子を解明 膵臓がん克服に向けて前進

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