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日本人に多いヒトT細胞白血病ウイルス1型が炎症とがんを引き起こす新しいメカニズムを解明

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)というリンパ球の悪性腫瘍や、HTLV-1関連脊髄症(HAM)と呼ばれる慢性の神経疾患の原因ウイルスで、日本に現在約80万人の感染者が存在すると推定されている。このウイルスは、感染したリンパ球の数を体内で増やすことにより病気を引き起こし、約2~5%の感染者では感染細胞が悪性化しATLを発症する。

熊本大学病院感染免疫診療部の樋口悠介助教、同大学院生命科学研究部の安永純一朗准教授、松岡雅雄教授らは、ウイルスが持っているHTLV-1 bZIP factor (HBZ)という遺伝子に注目し、HBZが機能するように遺伝子操作したモデルマウス(HBZトランスジェニックマウス:HBZ-Tgマウス)を作成して解析してきた。このHBZ-Tgマウスでは、ヒトのHTLV-1感染者と同じ種類のリンパ球(CD4陽性CD25陽性Foxp3陽性T細胞)が増加し、炎症と悪性リンパ腫を発症することから、HBZがHTLV-1の病原性に重要な役割を果たしていると考えられる。HBZ-Tgマウスを詳細に解析することで、HTLV-1が慢性に感染し、病気を引き起こすメカニズムの解明につながると考えられる。

これまでの研究で、HBZ-Tgマウスは炎症とT細胞性リンパ腫を合併し、特に炎症が強いマウスではリンパ腫の合併率が高いことを見出していた。炎症性サイトカインであるIL-6が炎症を介して発がんを促進することが知られているため、研究を始めた当初はHBZ-TgおよびATLにおいてもIL-6が発がんを促進している可能性を考えた。そこで、IL-6を産生できないHBZ-Tgマウス(HBZ-Tg/IL-6ノックアウトマウス)を作成し解析を行ったところ、予想に反して炎症とリンパ腫の有意な増加を認め、IL-6はHBZの病原性に対しては抑制する作用を持っていることが判明した。IL-6は多彩な機能を有するサイトカインであり、免疫を抑制する制御性T細胞(Treg)という細胞の分化を阻害することが知られている。以前著者らは、HBZ-TgマウスではHBZの作用によりTreg様の細胞が増加しており、炎症の誘導に関与することを報告している。今回の結果は、HBZ-Tgマウスでは、IL-6の欠失が加わることでTregへの分化が更に促進され、疾病の発症も加速することを意味している。

一方、HBZ-Tgマウスでは免疫抑制性サイトカインであるIL-10の産生が亢進しており、HBZ-Tgマウス由来のT細胞の増殖を促進することが判明した。正常マウスのT細胞はIL-10刺激により増殖しないため、HBZがIL-10刺激を変調し、細胞増殖を促進すると考えられる。詳しい解析を行った結果、IL-10シグナルの下流で働く転写因子STAT1、STAT3とHBZが結合し、これらの転写活性を撹乱するというメカニズムを見出した。

これらの所見は、HBZがCD4陽性T細胞のIL-6とIL-10に対する反応性を撹乱することで炎症と発がんを惹起するという、これまでに知られていない病原性発現のメカニズムを示唆するものである。本研究での解析結果は、HTLV-1が感染細胞の増殖を促進し、持続感染を維持する機構に迫るものであり、HTLV-1感染によりATLや炎症性疾患が引き起こされる分子機構の基盤解明につながると期待される。また、IL-6やIL-6受容体は慢性関節リウマチなど自己免疫疾患の治療標的であり、これらの阻害剤が臨床で使用されている。HTLV-1感染者に対して使用される場合には注意深い観察が必要であると同時に、有効性、危険性に関する評価が必要であると考えられる。
(Medister 2020年6月22日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 日本人に多いヒトT細胞白血病ウイルス1型が炎症とがんを引き起こす新しいメカニズムを解明

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