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細胞不死化酵素「テロメラーゼ」に新しいがん化機能を発見

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所がん幹細胞研究分野の増富健吉分野長、金沢大学附属病院総合診療部の山下太郎准教授および医薬保健研究域医学系の金子周一教授、東北大学大学院医学系研究科抗体創薬研究分野の加藤幸成教授らの共同研究グループは、細胞不死化酵素として知られているテロメラーゼに、細胞のがん化に深く関わる別の新しい機能があることを明らかにした。さらに、この新たな機能は、肝臓がんや膵臓がんのうちでも悪性度が高いものほど活発であること、また、その機能を保持するスイッチのオン・オフに関する機序の解明にも成功した。

がん細胞の最大の特徴の一つとして、何度でも細胞分裂を続けることができるという性質がある。この「がん細胞が無制限に細胞分裂できる能力」のことを専門用語では「細胞不死化能」という。一方、正常な細胞は、細胞分裂の回数に制限があり、無制限に細胞分裂を繰り返すことはできない。このように、がん細胞には不死化能があるのに対して、正常細胞には不死化能がないことが大きな違いであったため、約30年にわたり多くの研究者によって、がん細胞はどのようにして細胞不死化能を獲得するのかという研究が行われ、1997年に細胞不死化酵素としてテロメラーゼという分子が発見されている。その後も、世界中のがん研究者らは、細胞不死化能の有無に着目して、テロメラーゼを阻害する薬剤の開発を進めてきたが、がん治療として十分に効果がある薬剤は開発できていなかった。

また、近年、世界中のがん研究者が参加する国際共同研究による、「がん全ゲノム解読」によりテロメラーゼが大変重要であることが改めて証明されることとなった。例えば、C型肝炎関連肝臓がんなどでは、患者検体を用いた大規模ゲノム解析で、約7割の症例でテロメラーゼが発がん過程における最も重要な分子であることが報告されている。テロメラーゼは、もともと細胞不死化酵素として同定された分子であることから、これまでは、このテロメラーゼの役割は唯一、「細胞に不死化能を付与する」ものと理解されてきたが、「テロメラーゼの細胞不死化能を阻害する」という考え方に基づくと、がん治療薬の開発が順調に進展しなかったことなどから、テロメラーゼには別の働き(新たな機能)があるのではないかと考える研究者らが出てきた。

本共同研究グループは、1)新たなテロメラーゼの分子機序の探索、2)テロメラーゼの新たな機能が、がん細胞で活発に作用しているのか、3)どのようにしてテロメラーゼの新たな機能のスイッチが入るのか、に関して研究を進めてきた。

テロメラーゼとの関連が示されている肝臓がんと膵臓がん患者からの手術検体等を用いた解析を行った結果、テロメラーゼの新たながん化機能が肝臓がんや膵臓がんのうちでも悪性度が高いものほど活発であり、この機能の作用が強いほど予後が悪いことを明らかにした。

このテロメラーゼの新たな機能のスイッチがどのように制御されるのかについて調べたところ、CDK1という分子がテロメラーゼをリン酸化することでスイッチを入れていることを見出した。そこで、テロメラーゼの新たな機能のスイッチを入れる分子であるCDK1の機能を阻害してみると、細胞不死化酵素としての機能には何の影響も及ぼさない一方、テロメラーゼの新たな機能は完全に阻害されることを確認した。これらのことから、このスイッチは、テロメラーゼの新たな機能のオン、オフをコントロールしていることが確認できた。さらに遺伝子編集技術を用いることで、テロメラーゼの新たな機能のみが働かなくなった細胞を作製した。その結果、この細胞では、正常な細胞と同じようにマウスで腫瘍を作らなくなった。これらの結果を総合的に判断すると、「テロメラーゼの新たな機能」だけを働かなくする(スイッチをオフにする)だけで、もはやがん細胞としての特徴を持たなくなってしまうが分かった。

これらの知見をもとに、今後、テロメラーゼの新たな機能を抑制する全く新しいタイプのがん治療法の開発が期待される。
(Medister 2020年4月27日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 細胞不死化酵素「テロメラーゼ」に新しいがん化機能を発見 全く新しいタイプのがん治療法の開発を期待

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