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疾患と関わる血液中の酵素活性異常を「1分子」レベルで見分ける技術の開発

東京大学大学院薬学系研究科の坂本眞伍大学院生、小松徹特任助教、浦野泰照教授、理化学研究所開拓研究本部渡邉分子生理学研究室の渡邉力也主任研究員、東京大学大学院工学系研究科の野地博行教授、名古屋市立大学大学院薬学系研究科の中川秀彦教授、国立がん研究センター研究所の本田一文部門長らの研究グループは、血液中の酵素を「1分子」レベルで区別して検出する新たな方法論を開発し、疾患と関わる酵素活性異常を超高感度に検出する病態診断法の可能性を示した。

生体内には、数千種類を超える酵素が存在し、これらの中にはさまざまな疾患の発生と関連して活性異常が起こるものもある。血液中の特定の酵素活性の異常を知ることは、疾患の有無を判断する際の指標(バイオマーカー)として広く用いられている。

しかしながら、現在、血液中の酵素を検出する方法論では、その感度の不十分さから血液中にごく微少量で存在する酵素を検出することが困難である場面がしばしば見られ、特に、疾患の早期診断に関わる酵素活性異常を見つけるためには、このような酵素の活性検出法の高感度化が求められている。

本研究では、肝臓障害と関わるアルカリホスファターゼ(ALP)をはじめさまざまな疾患の進行に伴って血液中の酵素活性が変化することが知られているリン酸エステル加水分解酵素に着目し、この活性を網羅的に1分子検出する実験系を開発した。ALPは、由来組織に応じて異なるサブタイプが血液中に放出されるが、従来の酵素活性検出による診断ではこれらを区別して検出できなかった。特に、血液中で観察される代表的なサブタイプである臓器非特異的ALP(TNAP)、小腸型ALP(ALPI)は、その配列相同性が50-60%程度と高く、これを本手法によって区別して1分子検出することを第一の技術目標として設定した。そして、3色の異なる波長を持つ蛍光色素を合成し、ALPとの反応性を示しながらも異なる構造を持つ蛍光プローブ群を開発し、これらのプローブを組み合わせることで、サブタイプのわずかな反応性の違いを見分けて検出可能であることが確かめられた。これらの酵素の1分子レベルの検出を血液中で実現したのは世界で初めてのことである。解析の結果、血液中に存在するこれらの酵素の構造的特徴が、大腸菌などによって人工的に作られた酵素の構造的特徴とは大きく異なることも明らかになった。

そして、この高感度検出系を用いることで、従来の解析では検出されないレベルで血液中に存在するさまざまなリン酸エステル加水分解酵素の活性を発見し、これらのパターンの違いを多変量解析によって分類する技術プラットフォームを確立した。これを用いて糖尿病患者血清中のリン酸エステル加水分解酵素の網羅的1分子解析をおこなったところ、ALPIの活性が糖尿病患者血清において増大している様子が観察された。

さらに、この技術プラットフォームの拡充を目指し、名古屋市立大学の中川教授らの研究グループと共同で、より多様な酵素群の活性を検出する蛍光プローブ群を開発し、 ENPP(ectonucleotide pyrophosphatase/phosphodiesterase)と呼ばれる酵素群の活性を1分子レベルで検出する方法へと発展させた。国立がんセンター研究所の本田部門長らの研究グループと共同し、膵臓がん患者由来の血漿サンプル中からこれらの酵素を検出する実験をおこなったところ、ENPPのサブタイプの1つであるENPP3の発現量が、がん患者由来の血漿サンプルにおいて有意に向上していることが見出された。これまでに本タンパク質の存在が血液中で検出された報告はなく、本研究によって初めて発見された新規のバイオマーカー候補として、さらなる検証と応用を目指した研究を進めていく予定だという。
(Medister 2020年4月20日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 疾患と関わる血液中の酵素活性異常を「1分子」レベルで見分ける技術の開発 酵素の超感度検出による疾患の早期診断法の確立に期待

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