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次世代シーケンサー(NGS)による遺伝子パネル検査を組み合わせたHER2陽性大腸がんに関する国際協調診断基準を世界で初めて確立

国立研究開発法人国立がん研究センター先端医療開発センター臨床腫瘍病理分野ユニット長の藤井誠志の研究グループは、米国、韓国との3カ国共同研究により、HER2陽性大腸がんに関する国際協調診断基準を世界で初めて確立した。

国内において大腸がんは死亡数が年々増加しており、がんによる死因の第2位となっている。がんの発生と進行には様々な遺伝子が関わっており、近年、がんの遺伝子変異に基づいた個別化医療(precision medicine)が注目されている。HER2はERBB2遺伝子から生成されるタンパク質である。ERBB2遺伝子はドライバーがん遺伝子の一つであり、様々な種類のがんにおいてERBB2遺伝子増幅(CNV)によるHER2タンパクの過剰発現(HER2陽性)が認められている。すでに、乳がんおよび胃がんではHER2を標的とした治療が標準治療として組み込まれている。大腸がんの患者の中でも、およそ1~5%にみられるHER2陽性大腸がんは、乳がん・胃がんですでに承認されている抗HER2療法が効果的である可能性があるため、積極的な薬剤開発が国内外で進んでいる。しかしながら、対象の患者を的確に見つけるための診断基準が国内外で確立していないため、各研究グループが独自に定めている状態であった。今後、世界でHER2陽性大腸がんに対する臨床試験を進めていくにあたり、各研究グループが異なる診断基準を使用するのではなく、世界共通の診断基準の確立が求められていた。

本研究では探索コホートとしてSCRUM-Japanのレジストリ(登録)情報を活用し、2005年~2015年に国立がん研究センター東病院で外科手術を受けたステージIVの大腸がん患者の手術標本475例を解析した。その結果、ICH法/FISH法による診断では、(1)IHC 3+、または(2)IHC 2+かつFISH陽性 (≥2.0) という、HER2陽性大腸がんに対する診断基準を作成した。

次に、近年急速に普及しているNGSを用いた遺伝子パネル検査とICH法/FISH法との互換性を検討したところ、NGSでERBB2遺伝子増幅(CNV)の程度が4.0以下の症例は、上記のHER2陽性診断基準を満たす症例がないことが判明した。そしてNGSによる解析結果がCNV>4.0の場合、IHC法/FISH法と組み合わせることにより、的確に漏れなくHER2陽性大腸がんを診断できる可能性が示された。

さらに、韓国の研究グループから16例の大腸がんの手術標本の提供を受け、検証コホートとして解析を行ったところ、上記の診断方法が妥当であることが示された。また本研究では日韓で異なる企業のNGSパネルを用いて検証し、双方のNGSパネルに共通する基準値であることを確認した。現在、NGSは各社によって解析方法にばらつきがあり、解析結果が異なる場合があることが課題となっているが、今後NGSパネルの標準化がなされた場合は、IHC法/FISH法 を行わず、NGSによる解析のみで診断できるようになる可能性を示した。

国内外の研究グループが世界共通の診断基準を用いて研究開発を進めることで、より正確なデータが蓄積され、HER2陽性大腸がんに対する新薬開発の加速に貢献することが期待さる。さらに国立がん研究センターは、新しい治療法開発に向け世界をリードし、新薬開発基盤の構築を目指す方針である。
(Medister 2020年4月8日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 次世代シーケンサー(NGS)による遺伝子パネル検査を組み合わせたHER2陽性大腸がんに関する国際協調診断基準を世界で初めて確立

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