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進行卵巣癌の悪性化に関わる新たなメカニズムを解明

名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の吉原雅人大学院生、梶山広明准教授、吉川史隆教授、同大ベルリサーチセンター協同研究講座の那波明宏特任教授、国立がん研究センター研究所の山本雄介主任研究員、アデレード大学のCarmela Ricciardelli(カルメラ・リチャーデリ)博士らの研究グループは、進行卵巣癌の悪性化に関わるメカニズムを解明し、腹膜環境から新たな化学療法に対する抵抗性の原因を明らかにした。

卵巣癌は婦人科領域における最も予後不良な癌の一つである。多くの症例では、腹膜播種という、腹膜の壁全体に多発性の微小な転移を伴う特徴的な進行の形を示す。腹膜播種は、プラチナ製剤を中心とした化学療法を含む初回治療への反応性は比較的良好であるが、その後、高い確率で腹腔内に再発性の腫瘍が出現し、さらに化学療法への抵抗性を獲得することで、難治性癌(治りにくい癌)へと変化していく。こうした化学療法への抵抗性を獲得するメカニズムに関しては、これまでに幾つかの報告があるものの、依然として不明な点も多く、新たなメカニズムの解明や新規治療標的の探究が求められている。

研究グループは、卵巣癌の腹膜播種における癌細胞の生存を支える「土壌」、すなわち、環境としての腹膜に着目し、腹膜の特徴的な構成要素として腹膜中皮細胞に焦点を当てて研究をした。そして、これまでに卵巣癌細胞から放出される液性因子の一つであるTGF-β1により、卵巣癌に協力的な卵巣癌に関連する腹膜中皮細胞(OCAM)が出現し、卵巣癌の接着および増殖を促進することを明らかにした。一方で、腹膜播種という腫瘍が構築する微小環境においてOCAMがどのように進展し、また、卵巣癌の化学療法への抵抗性を獲得するのにどう関与するのかは明らかにされていなかった。本研究では、OCAMが卵巣癌細胞と共に腹膜播種という微小環境を構成するための環境構築を行い、さらに、卵巣癌細胞のプラチナ製剤への抵抗性の獲得に関与する可能性を新たに検討した。

卵巣癌の腹膜播種の組織では、中皮細胞の標識マーカーの一つであるcalretininという分子(陽性の細胞)が、腹膜の表面の単層上皮層から腫瘍の微小環境内へと連続して存在することを確認した。これらの変化は、主に卵巣癌から放出される液性因子であるTGF-β1により誘導される腹膜中皮細胞の間葉転換に基づくことを示し、研究グループは、これらの細胞を卵巣癌に関連する腹膜中皮細胞(OCAM)と定義した。

TGF-β1刺激後の腹膜中皮細胞を用いて卵巣癌細胞株との共培養を行ったところ、対照と比較して、明らかににシスプラチンへの抵抗性が増強していることが判明した。RNAマイクロアレイにより、網羅的にメカニズムの探索を行った結果、卵巣癌細胞内のAktシグナル活性化が、プラチナ製剤への抵抗性を獲得する原因と同定された。さらに、上流のシグナルを網羅的にプロテオーム解析して調査したところ、TGF-β1の刺激により、腹膜中皮細胞上に強発現したフィブロネクチンが卵巣癌細胞のAktシグナル活性を生み出す候補として浮上した。siRNAを用いて、TGF-β1刺激を行った腹膜中皮細胞上のフィブロネクチンを減少させると、共培養実験において卵巣癌細胞のAktシグナル活性は低下し、プラチナ製剤への抵抗性が改善することが判明した。一方、TGF-β1刺激により、マウスの腹膜上にもフィブロネクチンの発現が増えることを同定し、さらに、腹膜播種のモデルとして卵巣癌細胞を腹腔内に注入したところ、TGF-β1前投与を行ったグループでの腹膜に生着した卵巣癌細胞において、Aktシグナル活性の亢進を確認した。

以上の結果から、癌に関連する腹膜中皮細胞は、フィブロネクチンを介して卵巣癌細胞のAktシグナルを活性化させることにより、プラチナ製剤への耐性を誘導する可能性をもつことが明らかとなった。

今回の研究を通して、腹膜播種の微小環境における卵巣癌に関連する腹膜中皮細胞(OCAM)と卵巣癌細胞の織りなす相互関係が、腫瘍の進展を促進し、一部のプラチナ製剤への抵抗性の原因になっている可能性が分かった。したがって、これらのメカニズムの外因的要因である環境としてのOCAMを治療の標的とすることは、腹膜播種を伴う進行卵巣癌における新たな治療戦略になると考えられる。
(Medister 2020年2月10日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 進行卵巣癌の悪性化に関わる新たなメカニズムを解明 腹膜環境から化学療法抵抗性の原因

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