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がんに自律神経が影響することを発見 がんの神経医療の開発へ

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)細胞生理学分野の神谷厚範教授は、国立がん研究センター客員研究員で東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授、国立がん研究センター 中央病院の下村昭彦医師、福島県立医科大学の小林和人教授および加藤成樹講師らと共同で、自律神経が乳がん組織内に入り込み、がんの増大や転移に強い影響を及ぼすことを発見し、自律神経を操作してがんを抑制するような新しい治療の可能性を示した。

自律神経は、脳から心臓や腎臓などの末梢臓器へ命令(電気信号)を伝える有線ケーブルで、ほとんど全ての臓器の働きを調節している。疫学研究では、慢性ストレスががんの進展を加速させることが報告されており、ストレスに関連する自律神経の変化ががんに影響し得ることが示唆されていた。しかしながら、がん組織に実際に自律神経が入り込むのかどうかあまりよく分かっておらず、さらには、がん組織だけに分布する身体局所の自律神経の機能を調べるための研究技術も未開発であったため、がんの病状に、がん組織内に存在する自律神経がどのように影響するのかは分かっていなかった。

神谷教授らの研究チームは、自律神経が乳がんの増大に伴って乳がん組織内に入り込み、がんの増殖や転移に強い影響を及ぼすことを発見した。また、ヒト乳がん組織解析により、交感神経密度の高い患者群は、交感神経密度の低い患者群に比べて予後不良であることを発見した。さらには、ウィルスベクターを局所注射することによって、がん組織に分布する自律神経の遺伝子を操作し、その機能をコントロールする「局所神経エンジニアリング」を開発した。この技術を用いてマウス乳がん組織に分布する交感神経を刺激すると、原発がんのサイズは時間とともに増大し、遠隔転移が増えた。逆に、がん組織に分布する交感神経を除去すると、原発がんの増大と遠隔転移は抑制された。

現在、がんの治療は、外科手術、抗がん剤などの薬物治療、放射線治療が柱であり、また、がん免疫療法が発達しつつある。しかし、治療抵抗性のがんも依然として多く、また、各種の副作用の問題もあるので、新しいがん治療の創出が期待されている。本研究グループの研究成果により、今後、がん組織に分布する自律神経を操作する神経医療(遺伝子治療など)が、がんの新規治療戦略になる可能性があるため、将来、がん患者らに、新しい治療法の選択肢を提供できるよう発展することが期待される。
(Medister 2019年7月31日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース がんに自律神経が影響することを発見 がんの神経医療の開発へ

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