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メタゲノム・メタボローム解析により大腸がん発症関連細菌を特定

大阪大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授と東京工業大学生命理工学院生命理工学系の山田拓司准教授、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノム医科学分野の柴田龍弘教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らの研究グループは、多発ポリープ(腺腫)や大腸がんの患者を対象に、凍結便を収集しメタゲノム解析やメタボローム解析を行った。その結果、多発ポリープ(腺腫)や非常に早期の大腸がん(粘膜内がん)患者の便中に特徴的な細菌や代謝物質を同定した。

大腸がんは胃がんを抜き、日本では一番多いがんとなっている。食事など生活習慣の欧米化がその原因と考えられているが、そのメカニズムは明らかではない。ヒト一人の細胞数は約37兆個で、ヒト一人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個と言われ、重さにして約1から1.5kgとされている。これらの腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患など様々な疾患と関係することが、最近になって分かってきた。2012年に、口腔内で歯周病の原因菌として知られるFusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)が、大腸がんの患者の便中に特徴的に多数存在することが報告され、これまでに検証されている。

大腸がんは、大腸ポリープ(腺腫)、粘膜内がんを経て進行がんへと進展する(多段階発がん)。これまで、進行した大腸がんにおいて関連する細菌はいくつか特定されてきたが、進行がんになる前のステージで、大腸ポリープ(腺腫)や粘膜内がんと関連する細菌や代謝物質は知られていなかった。

研究グループでは、国立がん研究センター中央病院内視鏡科(斎藤豊 科長)を受診し、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けた616名の受検者を研究対象とした。食事等の「生活習慣などに関するアンケート」調査、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報を収集した。

その結果、がんのステージによって便中に増減している腸内細菌が大きく異なることが分かった。特に大腸がんの多段階発がん過程において、大腸がんと関連する細菌について大きく二つのパターンに分けることができた。

第一は、粘膜内がんの病期から増加し、病気の進行とともに上昇する細菌である。多くはFusobacterium nucleatumやPeptostreptococcus stomatis(ペプトストレプトコッカス・ストマティス)など、既に進行大腸がんで上昇していることが報告されている細菌である。

第二は、多発ポリープ(腺腫)や粘膜内がんの病期でのみ上昇している細菌として、Atopobium parvulum(アトポビウム・パルブルム)やActinomyces odontolyticus(アクチノマイセス・オドントリティカス)が特定され、これらの細菌が大腸がんの発症初期に関連することが強く示唆された。

Bifidobacterium属(ビフィズス菌)の細菌群は、粘膜内がんの病期で減少していた。また酪酸産生菌として知られるLachnospira multipara(ラクノスピラ・マルチパラ)やEubacterium eligens(ユウバクテリウム・エリゲンス)は、粘膜内がんの病期から進行大腸がんに至るまで減少していた。

さらにメタボローム解析の結果、多発ポリープ(腺腫)を有する患者には、デオキシコール酸という胆汁酸が腸管内に多いことが明らかとなった。また粘膜内がんを有する患者は、健常者と比較して、アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、グリシンが便中に増加していた。一方、分枝鎖脂肪酸であるイソ吉草酸は進行大腸がんで増加していました。

これらの大量のメタゲノム解析とメタボローム解析のデータを組み合わせ、腸内細菌、腸内細菌由来遺伝子と腸内代謝物質から、粘膜内がんの患者を便で診断するための機械学習モデルと、進行大腸がんの患者を便で診断するための機械学習モデルも作成した。

本研究成果により、個々人の腸内細菌叢の違いにまで踏み込んでがん予防や治療選択を行う「Microbiome-Based Precision Medicine」時代の幕開けになると考えられる。
(Medister 2019年7月10日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース メタゲノム・メタボローム解析により大腸がん発症関連細菌を特定 便から大腸がんを早期に診断する新技術

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