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肝がんの新しい分化分子分類と診断マーカー

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの藤田征志上級研究員、中川英刀チームリーダーらの国際共同研究グループは、特殊な「混合型肝がん」を主とする肝がんの統合的ゲノム解析を行い、肝がんの新たな分子分類を確立し、混合型肝がんの遺伝的特徴と診断マーカーを発見した。

肝がんの主な原因は、肝炎ウイルスの持続感染であり、世界中の肝がんの約75%は、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染によるものと推定され、肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎発症から肝硬変を経ると、高い確率で肝がんを発症する。原発性肝がん(最初にがんが発生した場所が肝臓であるがん)の90%以上は「肝細胞がん(HCC)」であるが、次いで、肝臓の中に発生する胆管がんである「肝内胆管がん(ICC)」が5~10%を占める。さらには、HCCとICCの組織像が複雑に混在した腫瘍が見られる「混合型肝がん」が1~2%存在する。

ICCおよび混合型肝がんは、HCCに比べて悪性度が高く、特に混合型肝がんは最も予後が悪いのが特徴である。混合型肝がんでは、HCCまたはICCに対して行われる化学療法や血管塞栓療法への効果は不明であり、外科的切除以外に効果が期待できる標準的治療法も存在していない。また、ICC細胞とHCC細胞が複雑に混じっているため、切除前の画像診断や生検による病理診断での正確な診断は困難である。混合型肝がんには、多様な形態に分化したがん細胞が見られ、その組織学的な多様性から、最近では、肝細胞や胆管細胞の両方に分化する肝臓の幹細胞や未分化な細胞からのがん化の可能性も提案されている。

近年のDNA解読技術の飛躍的な進歩に伴い、次世代シーケンサーとスーパーコンピュータを用いて、さまざまなタイプのがんや病気のゲノム変異を包括的に解析することが可能になってきている。国際共同研究グループは、日本と中国、シンガポールにおいて合計130例の稀な混合型肝がんの手術凍結標本を収集した。そして、それらのDNAとRNAから全ゲノムシーケンス解析、全エクソーム解析、RNAシーケンス解析を行い、これまで理研が解析してきた多数のHCCおよびICCのゲノム解析結果と比較検討した。また、混合型肝がんの中のHCC細胞像の部分とICC細胞像の部分を顕微鏡下において分離、さらには単細胞レベルにまで分離して、網羅的ゲノム解析を行い、混合型肝がんの細胞由来や進化の過程の推定を試みた。

その結果、混合型肝がんでは、がん抑制遺伝子TP53の変異がHCCやICCと比べて有意に多く、約50%の症例で確認された(HCCとICCは、20~35%)。これは、混合型肝がんの発生において、TP53の変異が中心的な役割をしていることを示している。また、HCCでの発がんで最も重要なTERT遺伝子のプロモーターやCTNNB1遺伝子の変異は、それぞれ23%、6%しか確認できず、HCCの変異遺伝子との重複はわずかである。

国際共同研究グループは、105例の混合型肝がんおよびHCCとICCを含む合計367例の原発性肝がんについて、それらのRNA発現プロファイルを統合・解析した。そして、肝がんの分化機構に着目して、「胆管細胞への分化型(P1)」「低分化型(P2)」「肝細胞への分化型(P3)」「肝細胞への高分化型(P4)」の四つに分類した結果、混合型肝がんのCombined typeとICCはP1に属し、混合型肝がんのMixed typeと形態上肝細胞への分化度が低いHCC、TP53変異(+)肝がんはP2に属していることも分かった。

今後、研究が進展することで、標準治療のない混合型肝がんの治療は、HCCに対する治療法か、もしくはICCに対する治療法へと個別化できる可能性がある。
(Medister 2019年6月1日 中立元樹)

<参考資料>
理化学研究所プレスリリース 肝がんの新しい分化分子分類と診断マーカー -日中共同による混合型肝がんのゲノム解析-

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