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日本人に多い卵巣明細胞がんなどでみられるARID1A遺伝子変異がんを対象に代謝(メタボローム)を標的とした新たながん治療法を発見

国立研究開発法人国立がん研究センターと学校法人慈恵大学は、卵巣明細胞がん(特に日本人に多い)や胆道がん、胃がんなどアジア人に多いがんで、高頻度にみられるARID1A遺伝子の変異した患者に対する新しい治療法を見出した。

それぞれの患者のがんの遺伝子異常を調べることで、最適な治療法を選択する「がんゲノム医療」が進められている。例えば肺がんや皮膚がんでは、EGFR、BRAF、ALK、ROS1遺伝子の活性化変異がそれぞれのキナーゼタンパク質の活性化をもたらし、がん細胞の増殖の鍵となっている。現在では、このようながんに対しては、活性化タンパク質に対する阻害薬(分子標的薬)が開発され、臨床現場で用いられている。しかしながら、多くのがんでは、このような遺伝子変異は検出されず、分子標的治療の対象となっていない。

多くのがんで見つかるのはp53やARID1Aのように遺伝子の機能を失わせるような「機能喪失性変異」である。遺伝子が活性化する場合は、直接、活性化タンパク質を抑える薬を用いた治療ができるが、機能喪失性変異の場合は、このような治療はできない。そこで、別の考えに基づいた治療法が必要である。

ある遺伝子やタンパク質が欠損した場合に、それが原因で細胞に新しい弱点となる遺伝子やタンパク質が生まれることがある。そして、この弱点となる遺伝子(タンパク質)を阻害すると細胞が死んでしまう、このような現象を「合成致死性」という。BRCA1, BRCA2遺伝子が欠損した乳がんでは、PARP1タンパク質が弱点であり、その阻害薬が現在治療に用いられている。このように「合成致死性」を利用したがん治療法(合成致死治療法)は新しいがん治療の概念として大きく期待されている。

ARID1A遺伝子は、様々な遺伝子の発現を促進するSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の一員として働くタンパク質を作る。そして、ARID1Aタンパク質は、遺伝子変異によって、卵巣明細胞がん、子宮内膜がん、卵巣類内膜がんなどの女性のがんや、胃がん、胆道がんなどアジア人に多いがんで欠損している。特に、日本人に多い卵巣明細胞がんでは、患者の二人に一人という高い割合である。そして、これらのがんは進行すると悪性であるため、有効な治療薬が求められている。

本研究により、ARID1A遺伝子変異のあるがんは、抗酸化代謝物グルタチオンの量が少ないという弱点を発見し、APR-246などのグルタチオン阻害薬やグルタチオン合成酵素に対する阻害薬を使うことで、ARID1A欠損がんに対する抗腫瘍効果が示されることが分かった。

今回のがん治療法の提案は、ARID1A欠損細胞には正常細胞にはない「代謝(メタボローム)の弱点」があるという発見に基づいている。よって、正常細胞への影響が少ないため、がん細胞特異的な効果の高い治療法となる可能性がある。また、ARID1A欠損は、卵巣がんなどの婦人科がん、胆道がん、胃がんなどの消化器がんを含め、多くのがんで観察されている。また、ARID1A遺伝子変異は、遺伝子パネル検査での同定も可能だという。

メタボロームを標的とした抗がん剤はまだまだ未開拓な部分が多いが、有望かつ新しい創薬領域であるといえる。今後、APR-246を含めたグルタチオン阻害薬による治療法の確立、新しいグルタチオン合成阻害薬の開発に取り組むことで、様々なARID1A欠損がんの個別化治療を進め、治療成績の向上を目指していく方針だという。
(Medister 2019年2月1日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター 日本人に多い卵巣明細胞がんなどでみられるARID1A遺伝子変異がんを対象に代謝(メタボローム)を標的とした新たながん治療法を発見

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