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小児・AYA世代の肉腫発症・再発メカニズムを解明

国立研究開発法人国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野、希少がんセンターは、カナダのHospital for Sick Childrenを中心とした国際共同研究(カナダ・日本・英国・米国)に参加し、小児・AYA世代に多いユーイング肉腫のゲノム解析を行った。

ユーイング肉腫は、主として小児から若年成人の骨や軟部組織に発生する肉腫であり、小児に発生する骨腫瘍では骨肉腫に次いで2番目に多いものである(類似疾患も含めて日本での年間発症数は100人未満)。

分子遺伝学的にはEWS-FLI1やEWS-ERGといった融合遺伝子が高頻度に検出されることから、こうした融合遺伝子が主な原因となって腫瘍が発生すると考えられているが、その発症メカニズムについてはほとんど解明されていなかった。また、再発のメカニズムや早期診断の可能性については十分な検討がなされていない。

そこで今回の研究では、50症例のユーイング肉腫検体(腫瘍・正常ペア)の全ゲノム解析を行い、染色体構造異常並びに体細胞変異を同定した。更に新たなデータ解析ツールを用いて、染色体構造異常の相互関連について解析を行った結果、40パーセント以上のユーイング肉腫症例においては、複数の染色体構造異常がループ状に次々と連結していくような複雑な異常形式 (連環染色体断裂融合:chromoplexy)によって、EWS-FLI1やEWS-ERGといった融合遺伝子が形成されていることを明らかにした。

また、連環染色体断裂融合の発生機序について検討したところ、複数の染色体の断裂・融合が一期的に起こっていること、断裂・融合は早期に複製され転写が盛んであるゲノム領域に集中していること、等の結果から、複数の染色体が同時に近接している細胞核内における転写ハブにおいて、何らかの原因によりゲノム断裂・融合が誘発されたものと推測された。こうした連環染色体断裂融合によるゲノム異常は、ユーイング肉腫に限定されたものではなく、軟骨粘液線維腫 (Chondromyxoid fibroma)、滑膜肉腫(Synovial sarcoma)、リン酸塩尿性間葉系腫瘍(phosphaturic mesenchymal tumor)の症例においても観察されており、広く肉腫の発生に関わる新たな分子機構であることが明らかとなった。

さらに、ユーイング肉腫の再発分子機構の解明のため、原発巣並びに同一症例における再発腫瘍の全ゲノム解析を行った。多くのがんの原発巣と再発巣では共通のゲノム異常が多く確認されるのに対し、ユーイング肉腫においては、驚くことに原発巣と再発巣で共通している変異は50パーセント程度であり、原発巣における主要なクローンの多くが再発病変には見られないことが分かった。また、再発巣に由来するゲノム異常の発生時期を調べたところ、原発巣の診断がつく1年から2年前にはすでに原発巣から枝分かれしたクローンが発生しており、それらが原発巣切除後に増殖し、再発病変を形成していると推測された。従って、血液を用いたゲノム診断(リキッドバイオプシー)などによる早期診断や再発クローンの早期同定が予後改善に有用である可能性が考えられる。

センターでは、今回同定した新たな腫瘍発生メカニズム(Chromoplexy)がどういった要因(環境要因や遺伝的要因など)で誘発されるのかについて更に研究を進めることで、こうした希少な肉腫の発生リスクの予測や予防に繋げていきたいと考えている。また、予後不良因子である腫瘍再発に関して、早期診断を目指し、血液等を対象としたリキッドバイオプシーによるゲノム診断の有用性について更に検討を進める方針である。
(Medister 2018年9月25日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センター ―日本・カナダ・イギリス・アメリカの国際共同研究成果― 小児・AYA世代の肉腫発症・再発メカニズムを解明

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