更新日:2026/08/23
日本の乳がん検診を遠ざける障壁はSNSに刻まれていた——X投稿46,823件の日英比較解析
日本の乳がん検診受診率は50%未満にとどまり、70%超とされる米国に比べて長年停滞している。その背景には何があるのか——名古屋市立大学大学院医学研究科乳腺外科らの研究グループは、X(旧Twitter)の検診関連投稿を自然言語処理で大規模に解析し、日本語圏と英語圏で受診を遠ざける障壁の「中身」が質的に異なることを明らかにした。2026年7月31日付でJournal of Medical Internet Researchに掲載された※1。
発表のポイント
• 日本語投稿の最大の障壁は「痛み」(5,788件・19.3%)で、「恐怖」や「予約」と強く結びついていた
• 英語圏では「費用」(1,239件・7.4%)が最大で、制度・経済的な障壁が中心だった
• マンモグラフィは超音波単独より感情的にネガティブな傾向があり(Cohen d=0.264)、超音波でもマンモグラフィと同時実施だと痛みへの言及が5.0%から18.2%に上昇した
概要
研究グループは2025年にX上から乳がん検診に関連する投稿を収集し、ノイズ除去後に46,823件(日本語30,027件・英語16,796件)を対象として解析した。感情極性スコアの算出と、単語の共起ネットワーク解析などの手法を用いて、受診を妨げていると考えられる要因(障壁)を抽出・分類した。
全体の感情分布を比べると、日本語と英語の間に実質的な大きな差は見られなかった(Cohen dという効果量の指標で0.049)。しかし障壁の内訳に目を向けると、両言語圏の違いは明確だった。
英語圏では「費用(Cost)」が最大の障壁で、1,239件・7.4%を占めた。米国の医療保険制度を背景にした経済的・制度的な問題が中心で、「高濃度乳房(Dense breasts)」への関心も特徴的だった。
一方、日本語の投稿では「痛み(Pain)」が圧倒的に多く、5,788件・19.3%に達した。さらに解析すると、検診「前」の段階では「恐怖」(19.4%)や「予約」(40.9%)といった不安が前景に立ち、検診「後」になっても痛みの記憶に関する言及が15.6%と続いた。このように、痛みにまつわる不安が検診の前後を通じて心理的な重荷になっている様子が浮かび上がった。
検査方法ごとでは、マンモグラフィに関する投稿は超音波単独と比べて感情が有意にネガティブで(P<.001、Cohen d=0.264)、超音波検査であっても、マンモグラフィと同日に実施された場合は、痛みへの言及の割合が5.0%から18.2%に上昇した。
著者らはこれらの知見をふまえ、日本では検診時の痛みを和らげる個別化した圧迫プロトコルの導入や、予約のしやすさを改善することが、受診率向上に向けた実践的な手がかりになりうると指摘している。
なお本研究は、SNS上の投稿を集めて分析する「インフォデミオロジー研究」と呼ばれる手法による観察研究である。投稿者が乳がん検診の受診者全体を代表しているとは限らず、SNS利用者層の偏りがある点は研究の限界として留意が必要だ。また本研究は、マンモグラフィと超音波検査のいずれが検診として優れているかを評価した研究ではない。
この記事の読者にとっての意味
この研究は、乳がん検診を受けたことがある方、あるいはこれから受けることを考えている方に参考になる内容だ。「痛みが怖くて予約できない」「予約したものの不安が消えない」という経験は、同じ状況にある多くの人がSNSに書き残していることが今回の研究で数量的に示された。
現時点では、この研究によって検診の方法や流れが直ちに変わるわけではない。マンモグラフィや超音波検査(エコー)を用いた乳がん検診は、すでに医療機関や自治体の検診事業で実施されている。どの検査を受けるか、どのように組み合わせるかは、年齢・乳房の状態・既往歴などをもとに主治医や検診医と相談して決めるものだ。
痛みへの不安や予約の難しさについて、受診前に医療機関に伝えてみることが一つの選択肢になる。「検診でどのくらい痛みを感じるか」「圧迫の加減を調整できるか」といった点を事前に聞いてみることで、不安が和らぐ場合もある。
乳がんの種類や治療についてより詳しく知りたい方は乳がんを、検診全般の仕組みや種類についてはがん検診についてを参照してほしい。
(Medister編集部 2026年8月24日)
本記事は2026年8月24日時点の公的機関の情報および原著論文をもとに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。個々の検診の受け方については、必ず医療機関にご相談ください。


















