更新日:2023/08/20
がん細胞の抗がん剤抵抗性を担う分子メカニズムを解明
帝京大学先端総合研究機構の岡本康司教授らは、国立がん研究センター研究所の浜本隆二分野長・金子修三ユニット長らとの共同研究で、大腸がんの抗がん剤抵抗性の維持に働く新しい分子メカニズムを発見した。
国民の二人に一人が「がん」に罹患する現代において、がんを根治する革新的な治療法の開発が待ち望まれている。がんの内科的治療において、抗がん剤等に対する耐性の獲得は、がんの再発や転移に繋がるため、がん患者の予後と深く関連している。そのため、抗がん剤抵抗性が生じる分子メカニズムの解明および有効な治療標的の発見が強く望まれていた。
これまでに岡本教授らの研究グループでは、大腸がん手術検体よりオルガノイド形成等によるがん三次元培養細胞系を樹立し、その中に存在する大腸がん幹細胞を対象とした研究を行ってきた。その結果、NOX1オキシダーゼによる活性酸素種の生産に起因するmTORC1キナーゼの活性化が大腸がん幹細胞の増殖に重要であることを報告した。また、オルガノイドやマウス移植腫瘍を用いた解析により、大腸がん組織には増殖型のがん幹細胞と休止型(増殖の極めて遅い状態)のがん幹細胞が混在することがわかった。さらに、休止型がん幹細胞が抗がん剤に強い抵抗性を示すこと、転写因子であるPROX1が休止型がん幹細胞の抗がん剤抵抗性に重要であることを報告した。そこで本研究では、PROX1陽性休止型がん幹細胞がどのように抗がん剤抵抗性を獲得・維持するのか、その分子メカニズムを解明することを目的とした。
本グループでは、大腸がん患者由来オルガノイドやマウス移植腫瘍を用いて、抗がん剤抵抗性を誘導する分子機構を解析した。一般的に細胞中でmTORC1を阻害するとオートファジーが活性化されることが知られているが、mTORC1阻害剤(Torin1、Everolimus等)により抗がん剤抵抗性細胞のマーカーであるPROX1の発現が誘導されることを確認した。一方、ChIP-seq解析等の研究手法を用いた結果、誘導されたPROX1はNOX1-mTORC1経路を抑制することにより、PROX1高発現を維持し抗がん剤抵抗性に寄与することが明らかになった。さらに、既存の抗がん剤とオートファジー阻害剤の併用により、大腸がん細胞の増殖を相乗的に阻害することを見出した。
本研究成果により、抗がん剤抵抗性に関与するオートファジー制御分子の同定やオートファジー経路を標的とした新しい種類の抗がん剤の開発、大腸がんに対する新しい治療法への展開が期待される。
(Medister 2023年8月7日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース がん細胞の抗がん剤抵抗性を担う分子メカニズムを解明 オートファジーを標的とした新しい大腸がん治療法開発に期待