更新日:2023/02/27
アジア太平洋地域の肺がん遺伝子スクリーニング研究「LC-SCRUM-AP」を開始
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院は、企業およびアジア太平洋地域の国々の協力を得て、アジア太平洋地域の肺がん遺伝子スクリーニング研究「LC-SCRUM-AP(エルシー・スクラム・エーピー)」を開始した。
近年、次世代シーケンス法(next generation sequencing ; NGS)などの遺伝子解析技術の進歩により、個々のがん患者の遺伝子解析結果に基づいて有効な治療を選択する、個別化医療が確立してきた。肺がんでは、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異、NTRK融合遺伝子、MET遺伝子変異、RET融合遺伝子、KRAS遺伝子変異を標的とする治療薬が国内で承認されている。さらに、様々な遺伝子変化を標的とする治療開発が盛んに行われており、今後、肺がんにおける個別化医療の確立は更に加速することが予想される。しかし、EGFR遺伝子変異以外の遺伝子変化の頻度は非小細胞肺がんの1~3%と希少であり、臨床試験に基づいた治療開発を行うためには、国内だけでなく、他国の協力も得た大規模な国際的遺伝子スクリーニング基盤の確立が必要である。
LC-SCRUM-APにはアジア太平洋地域(タイ、マレーシア、ベトナム、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、台湾)の約20施設の医療機関が参加する。東病院は株式会社Precision Medicine Asia(PREMIA 社)の協力のもと、2022年10月31日にタイ、マレーシア、台湾の施設の立ち上げを行った。今後さらに他のアジア諸国への拡大とともに、臨床・ゲノムデータベースを集約した国際的な大規模肺がんデータベースの構築を目指す。アジア太平洋地域の遺伝子スクリーニング基盤を構築することで、アジア太平洋地域における肺がんの診断薬・治療薬の開発に貢献し、アジアにおける個別化医療の確立に貢献することを目指す。
LC-SCRUM-APによる、大規模な遺伝子スクリーニング基盤の構築により、分子標的薬の治療開発(臨床試験)の推進と、アジア太平洋地域における個別化医療の確立を加速させることが可能となる。さらに、今後LC-SCRUM-AsiaとLC-SCRUM-APのデータベースを統合し、アジア太平洋地域の臨床・ゲノムデータベースを確立することにより、極めて大規模なリアルワールドデータが集積され、個別化医療の確立へ貢献することが期待される。
(Medister 2023年2月27日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース アジア太平洋地域の肺がん遺伝子スクリーニング研究「LC-SCRUM-AP」を開始 新たな大規模肺がん遺伝子スクリーニング基盤を構築し、アジア太平洋地域における個別化医療の確立を目指す