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更新日:2022/11/21

がんゲノム医療のさらなる拡大へ向けた一歩 コンピュータ解析で意義不明変異のなかに治療標的となる新たな遺伝子変異を発見

国立研究開発法人国立がん研究センター、学校法人慈恵大学、国立大学法人京都大学、国立大学法人筑波大学などからなる研究チームは、がんゲノムデータベースに登録される約7万種類の遺伝子変異に対するコンピュータ解析やそれに基づく細胞実験を行い、これまで薬剤の有効性が確認できておらず意義が不明とされていた変異のなかから既存薬剤のRET阻害薬による治療効果が見込まれる新たなRET遺伝子の変異を発見した。

がん細胞に生じた遺伝子変異を見つけ出し、変異に有効な抗がん薬を投与するがんゲノム医療が全国のがんゲノム医療中核拠点・拠点・連携病院で保険診療として行われている。しかし、患者でみられる遺伝子変異の多くは発がんや治療における意義がわからない意義不明変異(VUS, variants of unknown significance)である。これらの変異は検出されたとしても、効果の見込まれる抗がん薬が見出せず、がんゲノム医療における大きな課題となっている。今後、がんゲノム医療をより有用なものとするためには、この意義不明変異の意義を理解し、治療に生かしていくことが必要である。

RET遺伝子は、他の遺伝子との融合や変異によって活性化し、肺がんや甲状腺がんを引き起こすがん遺伝子である。これらの遺伝子変化を持つがんに対し高い効果を持つ治療薬としてRET阻害剤が開発され、保険診療で用いられている。しかし、RET遺伝子の変異については、RET阻害剤が投与される対象となるのは、有効性が確認できているホットスポット変異と呼ばれる一部の変異のみで、他の多くは意義不明変異とされてきた。

本研究では、様々ながんで見られる変異を集めたデータベースであるGENIEデータベースに登録される7万個以上の遺伝子変異に対して、コンピュータを用いるインシリコ技術によりがんの進化の過程での正の選択やタンパク質の可動性への影響を推定した。その結果、RET遺伝子の意義不明変異の中に、治療標的となる新たな変異群が存在することを発見した。

この変異は、RET遺伝子のCaイオン結合モチーフ (CaLM, カルモジュリン様モチーフ) に存在し、肺がん、大腸がん、乳がんなど複数のがんで見られた。「富岳」「TSUBAME3.0」など複数のスーパーコンピュータを用いた分子動力学シミュレーションから、このCaLM変異はRETタンパク質とCaイオンの結合を低下し、RETタンパク質の可動性を高めるなど大きな影響を持つことが推定された。細胞や精製したタンパク質の実験を行ったところ、シミュレーションでの推定と合致して、RET変異タンパク質は異常な共有結合により二量体化し、RETタンパク質の持つキナーゼ酵素の恒常的な活性化を引き起こし、細胞をがん化させるなど、RETタンパク質の機能を大きく変化させることが分かった。

また、このRET変異タンパク質の恒常的な活性化や変異腫瘍細胞の増殖は、セルペルカチニブ、プラルセチニブという既存のRET阻害薬で抑えられた。よって、RET遺伝子のCaLM変異を持つがんには、RET阻害薬による治療が効果を示す可能性がある。

今回発見されたRET遺伝子のCaLM 変異を持つがんの患者に、RET阻害剤が治療効果をもたらすか、臨床試験を行うことで確認していきたいと考えられる。また、RET遺伝子以外にも意義不明変異は数多く見られる。今後、本研究で用いたインシリコ解析技術を用いて様々な遺伝子で見つかる意義不明変異の意義を解釈することで、既存の抗がん薬による治療効果が見込まれる遺伝子変異群を見つけ出し、患者の治療機会を拡大できると期待される。
(Medister 2022年11月21日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース がんゲノム医療のさらなる拡大へ向けた一歩 コンピュータ解析で意義不明変異のなかに治療標的となる新たな遺伝子変異を発見
GENIEデータベース

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