更新日:2022/10/21
井上真奈美 がん対策研究所部長が国際がん研究機関科学評議会議長に就任 アジア圏及び日本から初めての選出
国立研究開発法人国立がん研究センター(以下NCC)がん対策研究所予防研究部長の井上真奈美氏が、世界保健機関(World Health Organization、以下略称:WHO)の附属機関でがん研究を担う国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer、以下略称: IARC)の科学評議会(Scientific Council)の議長に就任し、2022年5月から任務を開始している。
日本は1972年と早い段階でIARCに加盟し、アメリカと並ぶ分担金を納入することでIARCの活動に主要な貢献をしてきたが、IARCとの地理的な問題(フランス、リヨンに所在)に加え、IARCとの協働によるグローバルな活動に対する積極的な働きかけ不足により、これまで十分にプレゼンスを示せずにいた。
こうした状況を打破するため、NCCはIARCとの連携を強力に進めてきた。2015年にはNCCがアジア諸国でのがん登録の整備支援のために技術協力を行うための、地域ハブ的役割を果たすGICR/Collaborating CentreにIARCから指定され、2017年には、IARCとNCCで、がん対策やがん研究での国際標準策定に貢献するための共同研究や人事交流を推進することを目的としたMoUを締結した。具体的な国際的活動としては、GICR計画以外にも、世界のがん負担の計測(CI5)、国際疾病分類腫瘍学第3版(ICD-O-3)や病理分類規約(WHO Bluebook)の更新に関与、がんゲノミクスの‘Mutographs’研究への参加、環境暴露による変異シグネチャーの解析などを積極的に行ってきた。
就任に当たり、井上真奈美氏は「世界視点でのがんに対する予防戦略は、これまで主に欧米先進諸国のエビデンスや研究成果に基づいて進められてきました。この度の議長就任を機に、長年日本が積み上げてきた国内の疫学研究やコホート研究の実績や、IARCとの共同研究、アジアとの連携によるアジアコホートコンソーシアムの運営などの経験を活かし、以下の取組を進めていきたいと考えています。NCCは、2021年9月にがん対策研究所を設置しました。IARCに対して日本から科学的な発信を行うことで、世界の中でも急速にがん負担が増大するアジア地域でのエビデンスに基づき、アジア基準での提言を積極的に行うことにより、アジア発で世界のがん対策をリードする契機につながると考えます」とコメントした。
IARCには、現在、日本を含む27カ国が加盟し、50カ国350人の研究者が基礎研究、疫学研究を推進し、世界のがん対策のためのエビデンスの創出やがんの病理分類、発がん物質の判定、がん予防の指針設定などを行っている。こうした成果は、がん対策推進のための根拠として、多くの先進国で活用されている。科学評議会は、IARCの研究計画や研究成果を外部から評価し、方向付けを行う組織で、加盟国からがん研究の専門家の候補者を募り、投票により委員や議長等が選出される。井上氏は、アジア圏からも日本人としても初めて議長に選出されている。
(Medister 2022年9月26日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 井上真奈美 がん対策研究所部長が国際がん研究機関科学評議会議長に就任 アジア圏及び日本から初めての選出 日本と世界のがん対策の推進に貢献