更新日:2022/07/03
血液中のアミノ酸プロファイルを調べることで、がん免疫療法が有効な患者を選別できることを発見
神奈川県立がんセンター、久留米大学、味の素株式会社の共同研究により、治療前の血液中のアミノ酸プロファイルを調べることで、免疫チェックポイント阻害薬治療が有効な患者を選別できることを明らかにした。
各種がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1/PD-L1抗体)が使用されるようになっている。ただし、その臨床的効果は患者により異なることや重篤な有害事象を合併することもあるため、効果の期待できるがん患者だけを選別する“個別化免疫治療”の開発が望まれている。また、本治療は高額であるため、有効な患者を選別するバイオマーカーの開発は医療経済的にも重要な課題といえる。現在、抗PD-1/PD-L1抗体治療におけるバイオマーカーとして腫瘍組織でのPD-L1発現や遺伝子変異の多寡などが用いられているが、その臨床的評価は定まっていない。また、腫瘍組織を用いた解析であるために患者に対して大きな侵襲を伴うこともある。従って、新しいバイオマーカー、特に、容易に採取可能な末梢血を用いて測定できるバイオマーカーの開発が望まれる。
アミノ酸はタンパク質・核酸などの生体成分の基質として、またエネルギー源として利用される普遍的な栄養素であり、がん細胞の増殖や免疫細胞の機能制御に必須である。本研究では、血中アミノ酸・代謝物パラメーターの組み合わせによりがん患者の免疫状態を把握し、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測できるかどうかを検討した。
抗PD-1/PD-L1抗体治療を受けた進行・再発非小細胞肺がん患者53例の治療前の血中アミノ酸とその代謝産物(36種類)の濃度を質量分析計を用いて測定し、全生存期間との相関を検討した。4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度を組み合わせて作成した判別式を用いると、治療効果の高い患者を高精度に選別できることが判明した。なお、腫瘍組織でのPD-L1発現の高い患者群においても治療効果が予測できたことから、バイオマーカーとしての新規性・有用性が示された。
末梢血単核球における遺伝子発現を解析し免疫細胞の頻度を調べたところ、無効群に比べ有効群ではCD8陽性T細胞やマクロファージ(M1型)の頻度が高いことが判明した。さらに、患者選別に有効であった4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度と免疫関連遺伝子の発現との相関を調べたところ、アルギニン・セリン・グリシン濃度がT細胞関連遺伝子と正の相関を、マクロファージ(M2型)遺伝子と負の相関を示した。一方、キノリン酸濃度はT細胞関連遺伝子と負の相関を、マクロファージ(M2型)遺伝子と正の相関を示した。これらの結果から、末梢血のアミノ酸プロファイルががん患者の免疫状態を反映するものと考えられた。
末梢血単核球におけるアミノ酸代謝関連遺伝子の発現を調べたところ、有効群と無効群において発現差を認める12種類の遺伝子が同定された。これらのアミノ酸代謝関連遺伝子の発現と患者選別に有効であった4種のアミノ酸・代謝物(アルギニン、セリン、グリシン、キノリン酸)濃度との相関を調べたところ、多くの遺伝子で正あるいは負の相関を認めた。特に、3種類のアミノ酸代謝関連遺伝子(SLC11A1、HAAO、PHGDH)の発現量と免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果とが相関することが明らかとなった。
これらの結果から、アミノ酸代謝関連遺伝子の発現を介したアミノ酸プロファイルの変化ががん患者の免疫状態を制御し、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療効果に影響している可能性が示唆された。
本研究の成果として、アミノ酸プロファイル解析が免疫チェックポイント阻害薬の臨床効果を予測するバイオマーカーとして臨床応用されれば、“個別化がん免疫治療”が可能となり、高い効果の期待される患者を選択することによる治療成績の向上や、不必要な治療による不利益(有害事象合併・医療費浪費)の回避につながるものと期待される。
(Medister 2022年6月27日 中立元樹)
<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 血液中のアミノ酸プロファイルを調べることで、がん免疫療法が有効な患者を選別できることを発見