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更新日:2022/05/27

がん細胞からiPS細胞が樹立できない分子メカニズムを解明―新しいがん分子標的薬の開発に道―

山田泰広教授(東京大学医科学研究所附属システム疾患モデル研究センター 先進病態モデル研究分野)らの研究グループは、希少難治性がんである明細胞肉腫のマウスモデルを利用して、がん細胞で活性化している細胞内シグナル経路が、がん細胞のiPS細胞化を阻害していることを明らかにした。

様々な体細胞からiPS細胞樹立の成功が報告されてきたが、がん細胞からiPS細胞を作製した研究成果はほとんどなかった。その原因として、がん細胞からiPS細胞の樹立が困難である(がん細胞がiPS細胞化に抵抗性を持つ)ことが挙げられる。しかし、がん細胞のiPS細胞化抵抗性の分子メカニズムについては分かっていなかった。また、がん細胞は体細胞に遺伝子変異(DNAの配列異常)が起こることで細胞内シグナル経路が活性化した結果生じると考えられている。がん細胞で活性化した細胞内シグナル経路を標的にした治療法(分子標的療法)は、がん細胞を選択的に殺すことが出来ることから、効果的ながん治療法の一つであると考えられている。 しかしながら、多くのがん種において分子標的薬は同定されていない。そのため、それぞれのがんで治療標的となるシグナル経路を同定する方法の開発が望まれていた。本研究では、がん細胞が持つiPS細胞化抵抗性に関わる分子メカニズムの解明を目指した。さらに得られた知見をもとにそれぞれのがんに対応した分子標的薬を同定するスクリーニング方法の開発を目指した。

CCSの増殖・生存にはEWS/ATF1融合遺伝子の働きが必須であることが明らかになっている。EWS/ATF1融合遺伝子からつくられるEWS/ATF1融合タンパク質がDNA上に結合して、様々な遺伝子を働かせ、CCSが発生する。このCCS細胞にiPS細胞を誘導する細胞初期化因子(初期化因子)を働かせてiPS細胞の樹立を試みた。EWS/ATF1融合遺伝子が働いている条件下ではiPS細胞の樹立効率が極めて低い一方で、EWS/ATF1融合遺子の働きを止めた条件ではiPS細胞を樹立できることが分かった。

そこで、ChIP-seqという手法で、DNA上での初期化因子の結合パターンの変化を調べた。その結果、EWS/ATF1融合遺伝子が働いている(iPS細胞が樹立できない)条件下では初期化因子がEWS/ATF1融合タンパク質により形成されるCCSのエンハンサー領域に結合することが明らかとなった。初期化因子ががん細胞に特徴的なエンハンサー領域にトラップされてしまうことで、iPS細胞が適切に誘導できないことが分かった。

一方で、がん化に重要な遺伝子機能を抑制すれば、がん細胞に特徴的なエンハンサー領域が消失し、初期化因子の働きが回復することで、iPS細胞化が促進されることが明らかとなった。

CCSで得られた知見をもとに、他のがん種でもがん細胞で活性化しているシグナル経路を抑制すればiPS細胞化が促進されるかを検討した。がん治療に有効な分子標的薬が同定されているヒトがん細胞株を用いて、iPS細胞の作製を試みた。その結果、それぞれのがんに対応した分子標的薬を作用させると、NANOGをはじめとするiPS細胞化関連遺伝子の発現が亢進し、iPS細胞化が促進されることを明らかにした。iPS細胞化の程度を評価することで、がんに対する分子標的薬を同定できる可能性が示唆された。これらの知見をもとに、がんの分子標的薬を同定するスクリーニング系を開発した。実際にこのスクリーニング系では、有効な分子標的薬が同定されているがん細胞株において多くの薬剤の中から該当する分子標的薬が抽出できることを確認した。

CCSの増殖・生存にはEWS/ATF1融合遺伝子の働きが必須であることが分かっているが、EWS/ATF1融合遺伝子の働きによってどのような細胞内シグナル経路が活性化しているかは不明であり、有効な分子標的薬も同定されていなかった。そのため、ヒトCCSの細胞株を用いてiPS細胞化抵抗性を指標としたスクリーニングを行った。その結果、iPS細胞化を促進する薬剤としてmTOR経路の阻害剤が抽出された。実際に、EWS/ATF1融合遺伝子によりmTOR経路が活性化されることや、mTOR阻害剤が試験管内、生体内でCCS細胞の増殖を強く抑制することが分かった。

がんの治療には複数の分子標的薬の併用療法が有効であることが知られている。CCSに対する効果的な併用療法を開発するために、mTOR阻害剤との併用でiPS細胞化が促進される薬剤を探索した。その結果、mTORの阻害剤とp38MAPキナーゼの阻害剤の併用でiPS細胞化が促進されることを見出した。また、mTOR阻害剤単剤投与に比べ、mTOR阻害剤とp38阻害剤の併用でCCSの細胞増殖がより強く抑制されることを確認した。このことから、本研究で開発した薬剤スクリーニング方法は、併用で効果のある分子標的薬の組み合わせを同定する方法としても有効であることが示された。

本研究では、がん細胞からiPS細胞の樹立ができない分子メカニズムを明らかにするとともに、その知見を応用してがん細胞で活性化している細胞内シグナル経路および分子標的薬を同定するスクリーニング方法を開発した。効果的な分子標的薬が同定されていない難治性がんであるCCSに対して本スクリーニング方法を適用することで、CCSではmTOR経路が活性化しており、mTOR阻害剤がCCSの分子標的薬となりうることを見出した。さらにp38MAPキナーゼ阻害剤がmTOR阻害剤との併用でCCSの増殖を強く抑制することを同定した。このことは、本スクリーニング方法が、がん細胞で活性化している細胞内シグナル経路を同定する方法として有効なだけでなく、治療候補となる分子標的薬の同定、さらには、効果的な併用薬剤を同定する方法としても応用可能であることを意味している。未だ多くのがんで有効な分子標的薬が同定されていない。特にCCSのような希少がんでは研究開発が十分に進んでいない。今後このスクリーニング方法を応用することで、様々ながんの新規治療戦略の開発に貢献出来ることが期待される。
(Medister 2022年5月27日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース がん細胞からiPS細胞が樹立できない分子メカニズムを解明―新しいがん分子標的薬の開発に道―

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