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更新日:2022/05/16

肺癌細胞から出る細胞外小胞を調べて肺癌の種類を診断できる可能性

地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター研究所・糖鎖オンコロジー部と鹿児島大学大学院医歯学総合研究科呼吸器内科学分野の研究グループとの共同研究により、肺癌細胞から放出された袋状の粒子(細胞外小胞: EV)に含まれる糖鎖のかたちを調べることで、EVを放出した癌細胞の種類を診断できる可能性を見出した。

EVは、細胞が放出するナノメートル(10億分の1メートル)サイズの袋状の物質である。その役割について徐々に解明が進み、最近では癌細胞においては増殖や転移に関与すると考えられている。EVにはさまざまなタンパク質が含まれているが、その種類や量は肺癌患者では異なることが知られている。しかし、この違いは癌細胞の種類や性質を反映しておらず、EVがどのような細胞から放出されたのかは分かっていなかった。

“細胞の顔”とも例えられる糖鎖は、細胞の種類によってそのかたちが異なることが古くから知られている。この糖鎖のかたちは、ほとんどそのままEVにコピーされることが報告されてきた。このような背景から、共同研究チームはEVの糖鎖を調べることで、そのEVを分泌した細胞を特定できるのではないかと考えた。実際に、小細胞肺癌と非小細胞肺癌から放出されたEVには、それぞれの癌細胞の性質を反映した異なる糖鎖が存在することが明らかになった。

肺癌は大きく、小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分けられ、肺癌の性格や治療方法が全く異なる。現在の医療では、患者の身体から細胞を取って顕微鏡で見ないとどちらかが分からないが、細胞を取るには出血などの危険性を伴う。今回、EVを調べるだけでどちらのタイプか簡単に分かる研究成果が得られたので、今後、患者の体液を用いた危険性の少ない診断方法への道が開かれた。さらに詳しく癌細胞の種類や性質を調べられる可能性があり、EVを用いた検査、治療の選択や新規治療の研究開発などに寄与することが期待される。

細胞外小胞(EV)は細胞から放出される大きさが50〜150nmと非常に小さな袋状の物質である。癌研究においては、癌の転移などに関わっていることが解明され、研究対象として注目されている。EVはその小さな袋の中に細胞のタンパク質やDNA、メッセンジャーRNA、マイクロRNAといった核酸を封入し、それらを他の細胞へ受け渡すことで情報を伝えているとされている。

共同研究チームは、病態が異なる2種類の肺癌細胞から放出されるEVには、それぞれの細胞の特徴を反映する分子を有しているのではとの仮説を立てた。タンパク質に付加されたN結合型糖鎖は細胞の特徴を反映することがよく知られているので、それらについて解析した。

N結合型糖鎖は細胞内の小胞体で合成されたタンパク質に付加される。この糖鎖には、合成されたタンパク質を安定化させるという品質管理の役割がある。

小胞体で糖鎖を付加されたタンパク質は次にゴルジ体へ輸送される。ゴルジ体では糖鎖構造が大きく変化するが、その変化は細胞の種類ごとに異なる。このことから、N結合型糖鎖は細胞の特徴を反映する“顔”のような働きもあると言える。

神経内分泌癌の性質をもつ小細胞肺癌と肺上皮に由来する非小細胞肺癌の細胞からEVを集め、そこに含まれるN結合型糖鎖を解析した結果、小細胞肺癌のEVには脳に関連する糖鎖が確認された。一方、非小細胞肺癌は肺上皮に特徴的な糖鎖を持つことが確認された。

糖鎖はタンパク質に結合した状態で存在している。まず2種類の肺癌細胞のEVを用いて特徴的な糖鎖を持つタンパク質について詳しく調べてみると、いくつかのインテグリンと呼ばれるタンパク質が見つかった。インテグリンは、α鎖、β鎖と2つの異なる構造からなるタンパク質で、主に細胞と細胞外基質との接着に関与している。α鎖、β鎖共に複数の種類を有しており(α鎖: 18種類、β鎖: 8種類)、その組み合わせによって発現している細胞や結合する対象の分子が異なる。

次に、インテグリンについて解析したところ、非小細胞肺癌では細胞、EVの双方で上皮に特徴的なインテグリンα6β4が認められた。一方、小細胞肺癌では見られなかった。よって、肺癌細胞においてインテグリンα6β4は非小細胞肺癌で特異的であることが分かった。

以上のことから、小細胞肺癌と非小細胞肺癌の細胞から分泌されるEVには、それぞれの起源の癌細胞を示すN結合型糖鎖が存在することが分った。本研究の成果は、EVのN結合型糖鎖を解析することでその細胞の由来を同定できる可能性があることを示唆している。
(Medister 2022年5月16日 中立元樹)

<参考資料>
大阪国際がんセンタープレスリリース 肺癌細胞から出る細胞外小胞を調べて肺癌の種類を診断できる可能性

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