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更新日:2022/05/13

10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析―東アジアに多い3がん種へのゲノム医療の可能性―

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、碓井喜明特別研究員(岡山大学客員研究員、愛知県がんセンター任意研修生)、関根悠哉大学院生リサーチ・アソシエイト(研究当時、現秋田大学大学院生)、東京大学の村上善則教授、松田浩一教授、愛知県がんセンターの松尾恵太郎分野長、国立がん研究センター中央病院の吉田輝彦部門長、佐々木研究所附属杏雲堂病院の菅野康吉科長、昭和大学病院の中村清吾特任教授らの国際共同研究グループは、乳がんなど4がん種の発症リスクの上昇に関与する遺伝子(原因遺伝子)とされるBRCA1・BRCA2の両遺伝子(BRCA1/2遺伝子)が胃がん、食道がん、胆道がんの発症リスクも上昇させることを明らかにした。

がんは、遺伝と環境の両要因により発症すると考えられているが、一部のがんはゲノム配列上のたった1カ所の配列の違い(遺伝的バリアント)により発症リスクが大きく上昇することが知られている。その原因遺伝子としてBRCA1とBRCA2(BRCA1/2)があり、これらの遺伝子に病気の原因となる遺伝的バリアント(病的バリアント)が存在すると、乳がんは約10倍、卵巣がんは数十倍ほど発症しやすくなる。

BRCA1/2遺伝子の病的バリアントは他のがん種のリスクも向上させることが示唆されていることから、他のがん種についても大規模なデータで解析する必要がある。そこで、国際共同研究グループはバイオバンク・ジャパンが保有している日本人集団における14のがん種について、BRCA1/2遺伝子のゲノム解析を行った。

まず、理研が独自に開発したターゲットシークエンス法を用いて、BRCA1/2遺伝子のタンパク質への翻訳に影響が大きいとされる翻訳領域およびその周辺2塩基の合計16,111塩基の配列を、103,261人全員について調べた。その結果、100,914人(約97.7%)について十分なシークエンスデータが取得でき、1,810個の遺伝的バリアントを同定した。さらに、世界標準とされるENIGMAコンソーシアムの手法を用いて、これらの遺伝的バリアントから315個の病的バリアントを同定した。ほとんどの病的バリアントは、タンパク合成がその変異箇所で停止することなどで機能が低下する機能欠失バリアントであった。また、315個中197個は63,828人の患者のうち、それぞれたった1人しか持たない病的バリアントであった。一方で、10人以上が共有する、同一祖先に由来すると推定される「創始者バリアント」を11個同定した。

同定されたBRCA1/2遺伝子上の病的バリアントが、日本の各地域にどのような頻度で存在しているかを七つの地域に分類して調べた結果、どちらの病的バリアントも地域間で保持率に差があった。しかしながら、この保持率の地域差の原因の一つには創始者バリアントの存在があると考えられ、実際、この創始者バリアントを除くと、どちらの遺伝子も地域差は見られなくなった。こうした創始者バリアントの存在は、患者群・対照群で比較する研究を実施する際に、さまざまな地域から両群の試料・情報を収集する必要性とその意義を示唆している。また、今後、診療の場面において、BRCA1/2遺伝子のバリアントの医学的意義を評価する際に考慮することが求められるようになるかもしれない。

また、BRCA2遺伝子については、女性乳がん(10.9倍)、男性乳がん(67.9倍)、卵巣がん(11.3倍)、膵がん(10.7倍)、前立腺がん(4.0倍)に加えて、胃がん(4.7倍)、食道がん(5.6倍)の関連が認められた。P<0.05の基準まで見ると、子宮頸がん(3.2倍)、子宮体がん(4.0倍)、肝がん(2.4倍)、腎がん(4.5倍)との関連が認められた。これらの結果から、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントは、これまで報告されていたがん種よりも幅広く発がんリスクを上昇させており、特に東アジアに多い胃がん、食道がん、胆道がんの3がん種の疾患リスクを高めることが明らかになった。

女性乳がんでは、病的バリアントを持っていないと85歳までに乳がんになる累積リスクは10%未満であるが、BRCA1遺伝子に病的バリアントを持っていると72.5%、BRCA2遺伝子だと58.3%となる。この結果は海外の報告とほぼ同様となる。一方で、85歳までに前立腺がんになる累積リスクはBRCA2遺伝子に病的バリアントを持っていると24.5%となる。海外の報告では50%程度と報告されており、それより低めとなっている。この理由の一つとして、日本においても前立腺がん患者が増えてきているものの、それでも欧米に比べてまだ少ないことを反映していると考えられる。

さらに、BRCA1/2遺伝子の女性乳がんやBRCA2遺伝子の前立腺がんは、年齢が上がるとともに、病的バリアント保持率が下がっていくことも明らかになった。これは、一つの遺伝子が原因となる疾患では、一般的に年齢が若いときに発症しやすいことを反映している。一方で、卵巣がんのBRCA2遺伝子では年齢とともにその病的バリアント保持率は上昇する傾向にある。BRCA1遺伝子でも比較的似た傾向があり、今後、この関係を明らかにする必要がある。

今回の研究成果により、BRCA1/2両遺伝子が関与するがん種が既にPARP阻害剤の保険適用となっている4がん種よりも多く存在することが明らかになり、今後、新たに同定されたがん種についても個別化医療が進むものと期待できる。

また、発症との関連が強い遺伝的要因が明らかになったことで、今後、喫煙・飲酒などの生活習慣や、胃がんのヘリコバクター・ピロリ菌のような細菌感染やウイルス感染、あるいはゲノム全体の遺伝的バリアントの影響(ポリジェニックリスクスコア)など、他の要因と解析が可能になる。これらの情報が統合されることで、より一人一人のゲノム情報や生活環境に合わせた個別化医療が可能になると考えられる。
(Medister 2022年5月2日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース 10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析―東アジアに多い3がん種へのゲノム医療の可能性―

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