更新日:2022/02/05
アジア圏のデータシェアリング環境を主導し、世界の研究開発のリードを目指す国際臨床試験データシェアリング事業「ARCADアジア」始動
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院(以下東病院)は、アジアを中心として過去に行われた治験・臨床試験のデータを収集・統合し、医薬品の研究開発等への利活用を行うことを目的としたデータシェアリング事業「ARCADアジア(Aide et Recherche en Cancérologie Digestive Asia:アルカドアジア)」を開始した。
治験・臨床試験で得られたデータをシェアリングする取り組みは、欧米では既に開始されている。特に消化器がん領域においては、2000年代後半より、仏国ARCAD財団および米国Mayo Clinicの共同運営による進行再発大腸がんの臨床試験データの統合データベース構築(ARCADデータベースプロジェクト)が開始され、現在では第3相企業治験を含む49研究41,607例からなる世界的データベースに発展している。ARCADデータベースのような大規模なデータベースを用いた解析は、代替エンドポイントの開発や新たな病期分類の構築(本質的な予後因子の再構築)、高齢者や若年患者など希少な対象に対する検討等を可能とし、産(製薬企業)、官(アメリカ食品医薬品局(FDA)・欧州医薬品庁(EMA))、学(アカデミア)からの高い評価を得ている。
一方日本では、多様なステークホルダーの連携・協力を促していくための枠組みが不在であることなどから、現在までデータシェアリング環境が整備されていなかったが、2007年~2014年にかけて実施された国際共同ランダム化研究IDEA(大腸がん目標症例数 計12,000例)に吉野孝之氏(東病院消化管内科長)が参加し、最終的に全症例数の10%以上を日本から登録した。また、2018年に厚生労働省「臨床効果データベース整備事業(代表者:前原喜彦九州中央病院院長)」に採択され、4本の大腸がん術後補助化学療法の無作為化比較試験(1986~2009年に実施した切除可能結腸癌(Stage2-3,計6,080例))を米国Mayo ClinicのACCENTデータベースと統合したことで、アジア圏の臨床試験データの豊富な量と質の高さが世界において認識されるようになった。
今回その実績を踏まえたARCADからの要請もあり、アジア圏の臨床試験データのシェアリング環境となるARCADアジアを東病院に構築するに至った。
東病院内に「ARCADアジアデータセンター」を設置し、国立がん研究センターと各製薬企業等との間でデータ提供に関する共同研究契約を結び、コンソーシアム内におけるデータシェアリング体制を構築する。対象とする治験・臨床試験データは、製薬企業やアカデミア研究グループから契約下で提供をうけ、データセンターにて統合データベースを構築する。コンソーシアム参加者やアカデミアより統合データベースの利活用の希望がある際は、医学的な重要性・妥当性等を踏まえ、アカデミアグループにて十分検討の上、ARCADアジアデータセンターにて解析を行い、その解析結果を別途契約締結のうえ提供する。
本プロジェクトでは、まず切除不能進行再発(ステージ4)大腸がんの治験・臨床試験データを対象にシェアリングを開始する。ステージ4は製薬企業が医薬品の研究開発を優先的に行う領域のため、新薬開発についても利活用が期待できる。特に近年、ステージ4におけるアジア圏内の臨床開発が多数行われていることから、日本が先駆けて基盤構築に取り組むことで、アジアのデータシェアリング環境を主導することを目指する。
アジア圏のデータシェアリング環境を構築し、大腸がんを中心とした既存の治験・臨床試験および今後実施される臨床試験を統合したデータベースを用いた各種解析により、レギュラトリーサイエンス上の課題を体系的に評価していく。また、その結果に基づいて、臨床試験および薬事承認プロセスにおけるエンドポイントに関する提言を行うことで、医薬品の研究開発のコスト削減・効率化、ひいては患者のベネフィットの最大化につなげていく。さらに、本プロジェクトの基盤を生かし、将来的には欧米のデータベースとも統合し、世界的ながん臨床試験データベースの構築と豊富なデータを用いた各種解析による世界規模でのエビデンス創出と治療開発を促進する。
(Medister 2021年12月20日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース アジア圏のデータシェアリング環境を主導し、世界の研究開発のリードを目指す国際臨床試験データシェアリング事業「ARCADアジア」始動