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更新日:2022/02/05

大腸がんの肝転移による肝切除後の新たな標準治療を検証

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、科学的証拠に基づいて患者に第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施している。

大腸がんの肝転移については、過去の臨床試験や複数の臨床試験結果を総合的に評価するメタアナリシスによると、肝切除後の補助化学療法は再発等がない無病生存期間を改善するが、全生存期間の有益性については改善効果があるか否かに関して議論があった。現在推奨されている肝転移に対する補助化学療法のFOLFOX療法は、EORTC intergroup trial 40983(欧州で行われた、切除可能な肝転移を伴う大腸がんに対して、外科的切除単独と術前・術後のFOLFOX療法+外科的切除を比較した臨床試験)の結果に基づいて推奨されている治療法である。同試験では、肝転移を有する患者に対する術前・術後のFOLFOX療法は、無増悪生存期間(がんの増悪がなく生存している期間)には効果があるが、全生存期間には効果がないことが示された。さらに、切除可能な肝転移を有する大腸がん患者を対象とした同試験の術前・術後の化学療法のデータをまとめて、補助化学療法の価値について結論を出すことには注意が必要で、大腸がんの肝転移に対する補助化学療法の意義を明らかにするには、充分な精度をもった検証的な臨床試験が不可欠である。

そこで、JCOG大腸がんグループでは、日本の代表的な大腸がんの専門病院を中心に、標準治療である肝切除単独療法に対し、肝切除後に補助化学療法を行う治療の優越性を検証するランダム化比較第II/III相試験(JCOG0603)を実施した。

本試験計画時点で肝切除後にmFOLFOX6を行った第II相試験結果の報告はなかったために、登録開始から最初の78例(B群:mFOLFOX6群 39例)で第II相部分を行い、安全性を確認した後、引き続いて第III相部分を行う第II/III相試験とした。主要評価項目は第III相部分では無病生存期間、第II相部分ではmFOLFOX6療法の完遂割合、副次的評価項目は全生存期間、有害事象、再発形式とした。

対象の組み入れ規準は、年齢が20~75歳、組織学的に確認された切除可能な肝転移を有する大腸がん患者、原発巣と肝転移の両方が根治切除され、肝転移が最初で唯一の再発であること、全身状態が良好(ECOG PS 0または1)、CTまたはMRIで肝外転移や再発がないこと、オキサリプラチンを用いた化学療法の既往がないこと、十分な臓器機能を有すること、登録前3カ月以内に他の化学療法または放射線療法を受けていないこととした。

2007年3月から2019年1月までに、300人がランダムに、肝切除単独療法、または、肝切除後に補助化学療法を行う治療に割り付けられ、どちらかの治療を受けた。第II相と第III相を合わせて手術のみ群が149人、化学療法群が151人であった。第II相部分は最初78人で行われたが、mFOLFOX6の副作用による中止が多く起きたことから治療完遂割合を高めるために治療変更規準を変更したプロトコール改訂が行われ、その後第II相にさらに78人が登録された。2019年12月の第III相部分の中間解析(データカットオフは2019年6月5日)では、肝切除後に化学療法を行った患者のほうが、無病生存期間が有意に長かったため、試験は早期に終了した。

mFOLFOX6による補助化学療法は、肝切除単独に比べて無病生存期間を改善したが、全生存期間については肝切除単独群に比べて化学療法群が下回る傾向を認めた。化学療法群において、約半数で重篤な有害事象を認め、mFOLFOX6療法を3コース実施した後、1名が死亡した。

5年間の無病生存割合は、肝切除単独群では38.7%、補助化学療法を行った群では49.8%で、補助化学療法群は肝切除単独群に比べて無病生存期間を改善した。一方で、5年間の全生存割合は、肝切除単独群では83.1%、補助化学療法群では71.2%で、肝切除単独群に比べて補助化学療法群が下回る傾向を認めた。有害事象(副作用)については、補助化学療法群の約半数で重篤な有害事象を認め(グレード3以上の重篤な有害事象で最も多かったのは好中球減少50%、次いで感覚神経障害10%、アレルギー反応4%)、mFOLFOX6療法を3コース実施した後、1名が死亡した。

本試験の結果、肝切除後のmFOLFOX6は無病生存期間を改善したが、それに伴う全生存期間の改善がないことから、化学療法を一律に推奨すべきではないと結論づけられた。これまで十分な根拠がないまま広く行われていた肝切除後の補助化学療法に対して歯止めをかけ、肝転移巣の大きさが大きくない場合には、肝切除後はそのまま経過観察する治療が第一選択として推奨されることになるであろう。 (Medister 2021年11月15日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 大腸がんの肝転移による肝切除後の新たな標準治療を検証 肝切除後の補助化学療法は生存改善を認めず

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