更新日:2021/12/12
がん遺伝子パネル検査による治療選択を増やし、がんゲノム医療の加速化を目指すFGFR遺伝子異常を有する進行・再発固形がんに対する医師主導治験
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院(病院長:島田 和明)は、がんに関連する遺伝子変異を網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査で検出可能なFGFR遺伝子異常を有する固形がん患者を対象とした医師主導治験を、当院のほか北海道大学病院、東北大学病院、京都大学医学部附属病院、九州大学病院の全国5施設で実施する。
FGFR遺伝子異常は、がん細胞の増殖や生存、薬剤耐性などに重要な役割を果たしていることが知られている。また、肺がんや乳がん、胃がん、脳腫瘍など様々ながん種でFGFR遺伝子異常が認められることから、がん治療の有望な治療標的として期待されている。一方、FGFR遺伝子異常を有する患者の頻度は低く、従来の治療開発スキームでは治験の実施が困難であった。そこで本治験は、全国5施設のがんゲノム医療中核拠点病院による協力と、がん遺伝子パネル検査を活用する新たなスキームで行うことにより、希少な遺伝子異常を有する患者への治療開発を推進する。
また、がん遺伝子パネル検査は、標準治療がない、または終了したなどの固形がん患者を対象とし2019年6月に保険適用されたが、検査を受けた患者のうち、治療に結びついた患者の割合は10.9%(2019年10月末時点)と報告されており、治療選択の拡大が課題となっている。本治験では、がん遺伝子パネル検査による治療選択を拡大し、がんゲノム医療の加速化も目指す。
本治験の対象は、FGFR遺伝子異常を有する進行・再発固形がんの患者で、国立がん研究センター研究所で行った非臨床試験(前臨床)のデータをもとに、FGFRの選択的阻害剤(E7090)の有効性および安全性を検討する。本治験は、エーザイ株式会社より資金および薬剤提供を受けて実施する。
FGFRは、線維芽細胞増殖因子受容体と呼ばれ、細胞膜に存在するタンパクである。FGFR遺伝子異常には、融合、変異、増幅等があり、遺伝子異常により機能が活性化されると、がん細胞の増殖、生存、遊走、腫瘍血管新生、薬剤耐性などに結び付くと考えられている。国立がん研究センター中央病院で行われた研究では、がん遺伝子パネル検査が行われた187例(30種類以上の腫瘍が含む)中、8例(4.3%)にFGFR遺伝子異常が検出された。
本治験に参加する施設は、国立がん研究センター中央病院が実施している希少がんの研究開発・ゲノム医療を産学共同で推進するMASTER KEYプロジェクトの研究拠点でもあり、本治験に参加した希少がん患者らについては、同プロジェクトにも登録いただき、希少がん患者の治療開発にも役立てる方針である。
(Medister 2021年11月8日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース がん遺伝子パネル検査による治療選択を増やし、がんゲノム医療の加速化を目指すFGFR遺伝子異常を有する進行・再発固形がんに対する医師主導治験 全国5施設のがんゲノム医療中核拠点病院で実施