google+
はてなブックマーク
LINE
  • Medister
  • コラム
  • 書評
  • 医療系企業・特集
がん治療.com おすすめコンテンツ
心理状態の遷移
告知をされてから、がん患者の心理はどのように遷移するのか?
ストレス解消法
がん治療は大きなストレスとなりますが、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。
医師との付き合い方
がん治療するうえで、医師と上手に付き合っていくには?
  • がん治療.com コンテンツ一覧
  • がん治療.com 用語集

更新日:2021/07/23

家族性大腸腺腫症患者の治療選択拡大に期待

京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的予防医学石川秀樹特任教授と同武藤倫弘教授らからなる研究グループは、家族性大腸腺腫症(FAP)患者において低用量アスピリンがポリープの再発を有意に抑制することを解明し、その報告となる論文が、『THE LANCET Gastroenterology & Hepatology』にグリニッジ標準時2021年4月1日(日本時間4月2日)付けで掲載された。

本邦における家族性大腸腺腫症(FAP)の患者数は、現在約7,300人を数えている。この疾患はAPC遺伝子の病的変異により大腸に腺腫が多発するため(臨床診断基準では大腸腺腫を100個以上持つ患者)、ポリープがぱらぱらとみられるタイプ(非密生型)でも約60歳までにほぼ100%大腸がんを発生するなど、若年にてきわめて高い確率で大腸がんを発症することが知られている。

FAP患者に対する標準的ながん予防手法は、がん罹患の可能性が高い大腸を20歳頃に全て外科的に取り出してしまう「予防的な大腸全摘出術」しかない。しかし、この治療では患者の生活の質の低下は避けられず、また手術によるデスモイドが発生する確率も高くなる。さらに、手術は20歳を過ぎた頃に考慮されるため、仕事や出産への影響を鑑みて手術を希望しない患者も近年増加している。

本研究グループは以前、大腸腺腫を摘除した患者(FAP患者ではない患者)に低用量アスピリン(100 mg/日)を2年間服用してもらうことで、大腸ポリープの発生を非投与群の6割(4割減)に減少させることが可能となることを報告している(Gut 2014年)。この時ほぼ同時に計画していたのが、大腸がん発生確率が高いとされる「腺腫を数個持つ一般人」よりもかなり高い大腸がん発生確率が示されているFAP患者に対する同じ低用量アスピリンのポリープ増大抑制効果の検証であった。ただ7,300人という患者数を鑑みても希少疾患であるFAPについて、この試験を多数で行うことは容易ではなく、この度ようやくその有用性を科学的に示すことが出来た。

これまでの臨床介入試験では、FAP ではない大腸ポリープのある一般人に対する低用量アスピリンのポリープ抑制効果が認められていた。一方で、より症状の重い(ポリープ発生数が多い)FAP患者に対しては、低用量アスピリンによるポリープ抑制効果は報告されていなかった。海外の報告でもFAP患者に対する高用量アスピリンの抑制効果が、副次評価項目として報告されるに留まっていた。

今回、本研究グループの臨床試験において、FAP患者においても低用量アスピリンが大腸ポリープの増大を有意に抑制することが可能である、という主要評価項目におけるデータを得た。潰瘍性大腸炎の治療薬であるメサラジンに関しては抑制傾向を示すにとどまった。8ヶ月間、低用量アスピリンを服用すると、新たな大腸腫瘍が発生する患者の、補正オッズ比は0.37(95%CI:0.16-0.86)であり、アスピリンが有意に大腸腫瘍の増大を抑制することが示された。本試験は試験薬を飲んでいる人も、投与している医師も、どちらがアスピリンを服用しているかがわからないように設計されている、最も治験レベルの高い「二重盲検ランダム化比較試験」として行われた。今回、その試験デザイン(統計学的手法)に合った主要評価項目(一番目的とする結果)として成果が得られたことは、臨床研究の中でも最も科学的エビデンスレベルの高い証拠を明確に提示できたということになる。

また副次評価項目として、アスピリンが左側大腸ポリープに対してより強い抑制効果を示すことも見出した。これは大腸がんが左側大腸に多く発生することを考えると、将来の大腸がん発生に対するアスピリンの予防効果がさらに期待される結果である。

FAP患者のこれまでの標準的ながん予防手法は、予防的な大腸全摘出術であり、臨床ガイドラインに従い、日本中のどの医療機関でも患者が成人した頃には予防的な大腸全摘出術が医師により勧められてきた。このことは我が国以外においても同様である。そのため、大腸が温存されているFAPの成人患者はほぼいない。オールジャパンで臨んだ今回試験では成人で大腸が温存されている希少なFAP患者を全国からリクルートすることによって、このような患者を対象とした試験としては世界最大規模の試験となった。また、重篤な副作用が見られなかった試験であることも強調したい。

なお本試験は、日本医療研究開発機構(革新的がん医療実用化研究事業)における研究開発課題として実施している。
(Medister 2021年7月4日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 家族性大腸腺腫症患者の治療選択拡大に期待~がん高危険度群に対する初のがん予防薬実用化を目指して~

ページの上部へ戻る

がんの種類アクセスランキング

ページの先頭へ

医療系企業・特集

戦国武将とがん

書評

がんの種類