google+
はてなブックマーク
LINE
  • Medister
  • コラム
  • 書評
  • 医療系企業・特集
がん治療.com おすすめコンテンツ
心理状態の遷移
告知をされてから、がん患者の心理はどのように遷移するのか?
ストレス解消法
がん治療は大きなストレスとなりますが、自分に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。
医師との付き合い方
がん治療するうえで、医師と上手に付き合っていくには?
  • がん治療.com コンテンツ一覧
  • がん治療.com 用語集

更新日:2021/06/18

EBウイルス関連リンパ腫由来細胞外小胞に含まれる多様な炎症制御性分子の発見―がん微小環境形成の新たな仕組みを示唆―

東海大学生命科学統合支援センターの伊藤誠敏技術職員、同大医学部基盤診療学系先端医療科学の工藤海大学院生と幸谷愛教授らの研究グループは、EBウイルス関連リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞に様々な炎症制御性タンパク質や脂質分子が多く存在することを明らかにし、EBウイルス関連リンパ腫の新たながん微小環境形成機序を提唱した。

EBウイルス関連リンパ腫はEBウイルスに感染したリンパ球が活性化することによって発症する。強い炎症を伴い、既存の治療法が効きにくいため予後不良であることが知られている。しかし、その分子メカニズム等については不明な点が残されていた。

本研究では、細胞外小胞に豊富に含まれるタンパク質とリン脂質を質量分析によって網羅的に解析し、がん微小環境の形成に関与し得る新たな分子の解明を試みた。

本研究グループは以前の研究で、EBウイルスAkata株感染リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞(以後、Akata EVsと省略)のうち、表面にホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)分子を持つ細胞外小胞が周辺の貪食細胞(単球やマクロファージ)に取り込まれ、それら貪食細胞を腫瘍関連マクロファージに変換することでがん微小環境を形成することを明らかにした。PS結合性タンパク質の固相化ビーズを用いてPS分子を表面に持つAkata EVs及びがん微小環境形成能を持たないEBウイルスB95-8株感染細胞由来細胞外小胞(以後、B95-8 EVsと省略)を精製し、これら細胞外小胞のタンパク質を網羅的に解析した。その結果、PS分子を表面に持つAkata EVsとB95-8 EVsで数百種類のヒト由来タンパク質が検出された。同時に、複数のEBウイルス由来タンパク質も検出された。また、比較定量解析から、複数の炎症制御性膜タンパク質がPS分子を表面に持つAkata EVsに多く含まれていることが明らかとなった。PS分子を表面に持つAkata EVsに多く含まれていたFGF2とインテグリンaLb2タンパク質を阻害すると、Akata EVsによる単球培養細胞の炎症応答が抑制されたため、少なくともこれら2分子ががん微小環境形成に関与することが示唆された。次に、これら細胞外小胞に含まれるリン脂質を網羅的に解析したところ、多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂肪酸鎖が結合したリン脂質がPS分子を表面に持つAkata EVsに、より多く含まれることが明らかとなった。この多価不飽和脂肪酸は代謝によって様々な生理活性を有する分子(脂質メディエーター)に変換されることが知られている。

細胞外小胞は密度勾配遠心によって比重の異なる多様な亜集団に分離されることが知られている。EBウイルスAkata株感染リンパ腫細胞から放出された細胞外小胞を密度勾配遠心して10個の画分(F1~F10)に分離した。F1は最も比重が小さい画分で、F10は最も大きい画分になる。そのうち、F3とF4にはエクソソームのマーカータンパク質のCD63(cluster of differentiation:CD)が高発現しており、エクソソームが豊富に含まれていた。これら10個のAkata EV画分とPS分子を表面に持つAkata EVsについて、各々に存在するリン脂質分子組成の類似性を調べると、PS分子を表面に持つAkata EVsのリン脂質組成は比重の小さいAkata EV画分と高い類似性があることが明らかとなった。また、多価不飽和脂肪酸の一つであるドコサヘキサエン酸(Docosahexaenoic acid:DHA)結合型リン脂質の量も比重の小さいAkata EV画分で顕著に多く、PS分子を表面に持つAkata EVsと同程度であった。従って、がん微小環境形成能を持つ細胞外小胞はエクソソームや粒子密度の低い未知の細胞外小胞から成る亜集団であることが示唆された。

以上の結果をまとめると、EBウイルス関連リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞の中でも、粒子密度の低い(軽い)細胞外小胞亜集団(エクソソームや未知の細胞外小胞を含む)には貪食細胞への取り込みの目印となるPS分子が表面に出ており、これら細胞外小胞には以前の研究で解明されたEBウイルス由来小分子RNAに加えて多様な炎症制御性タンパク質や脂質メディエーター前駆体が蓄積していることが明らかとなった。このことから、この細胞外小胞が周辺の貪食細胞に取り込まれると、細胞外小胞に内包される上記の分子群による多面的なはたらきによって炎症反応が強く誘導され、腫瘍関連マクロファージへの変換とそれに続くがん微小環境の形成という機序が想定される。

本研究から、EBウイルス関連リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞によるがん微小環境の形成はある特定の細胞外小胞に内包される多様な分子群による多面的なはたらきが寄与しているという機序が示唆された。今後は、がん微小環境形成に寄与する細胞外小胞の解明とがん微小環境形成機序の検証を進め、EBウイルス関連リンパ腫におけるがん微小環境形成機序の全容解明と、がん微小環境を標的にした効果的な新規治療法の確立を目指す方針である。
(Medister 2021年6月19日 中立元樹)

<参考資料>
国立研究開発法人日本医療研究開発機構プレスリリース EBウイルス関連リンパ腫由来細胞外小胞に含まれる多様な炎症制御性分子の発見―がん微小環境形成の新たな仕組みを示唆―

ページの上部へ戻る

がんの種類アクセスランキング

ページの先頭へ

医療系企業・特集

戦国武将とがん

書評

がんの種類