更新日:2021/04/30
ステージ4大腸がんの新たな標準治療を検証
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、科学的証拠に基づいて患者に第一選択として推奨すべき治療である標準治療や診断方法等の最善の医療を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施している。
大腸がんは、年間15万人以上が罹患する、日本で最も多いがんである。そのうちの約17パーセントが肝臓や肺への転移や腹膜播種が認められるステージ4大腸がんが占める。
ステージ4大腸がんの治療は、原発巣と転移巣が切除可能であればともに切除することが標準治療であり、わが国の「大腸癌治療ガイドライン」でも推奨されている。しかし、これらはステージ4のわずか20パーセント程度に過ぎず、約80パーセントは転移巣が切除不能である。転移巣が切除不能である場合は化学療法を行うが、原発巣による大出血、高度貧血等の症状がある場合は原発巣の切除が行われる。一方で、原発巣による症状がない場合、米国のガイドラインでは、化学療法を先行する治療が勧められているが、そのエビデンスレベルは低く、日本のガイドラインでは定まった標準治療はなく、国内外において原発巣による症状がない場合の原発巣切除の対応が二分され、多くは切除することが選択されている。
原発巣の切除は、出血や狭窄の予防になることや、がん幹細胞が多く含まれると考えられる原発巣を早期に切除することで全身のがん細胞の制御に有利に働くことが期待されるが、手術に伴う合併症と、化学療法の開始が遅れる不利益が生じることもある。そのため、原発巣による症状がない場合の原発巣切除の意義を明らかにする必要がある。
治療の意義を明確にするためには、充分な精度をもった検証的試験が不可欠である。そこで、JCOG大腸がんグループでは、日本の代表的な大腸がんの専門病院を中心に、米国のガイドラインで標準治療とされる原発巣非切除で化学療法を行う治療に対し、原発巣切除後に化学療法を行う治療(原発巣切除術+術後化学療法)の優越性を検証するランダム化比較第III相試験(JCOG1007/研究代表者:国立がん研究センター中央病院大腸外科科長 金光幸秀)を世界で初めて実施した。
本試験では、2012年6月から2019年4月に、標準治療である化学療法単独治療を受けた82名の患者と、原発巣切除後に化学療法治療を受けた78名の患者について、生存期間の比較を行った。その結果、どちらの治療法を受けた患者も生存期間中央値は約26カ月から27カ月であり、原発巣切除を化学療法に先行しても生存期間が延長しないことが世界で初めて確認された。さらに、原発巣切除先行治療の方が、化学療法による有害事象の頻度は高くより重度であり、原発巣切除後の合併症死も認められた。一方、化学療法単独治療では、原発巣に起因する腸閉塞症などの症状で姑息的手術が必要となることは限定的であった。
今回の臨床試験で、これまで十分な根拠がないまま広く行われていた化学療法施行前の原発巣切除に対して歯止めをかけ、原発巣は非切除のまま化学療法を先行する治療が第一選択として推奨される。同様の臨床試験は世界中で実施されていたが、今回、世界に先駆けてわが国から発信する科学的エビデンスであり、本試験の結果により、日本だけでなく米国のガイドラインでも新たな標準治療に書き換えられ、全世界の研究者や臨床医に重要な情報が提供すされるとともに、大腸がん患者にさらに有効な治療が提供されることが期待される。
(Medister 2021年4月26日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース ステージ4大腸がんの新たな標準治療を検証 切除不能転移を有するステージ4大腸がんに対して原発巣切除を先行しても生存改善は認められず