更新日:2020/11/09
消化器がんのがんゲノム医療のさらなる発展 リキッドバイオプシーによるゲノム解析の有用性を証明へ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院は、消化器がんにおいて、患者の血液を用いてがんのゲノム異常を検出する検査(リキッドバイオプシー)を治験のスクリーニングに取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査に比べてより迅速に検査結果が返却され、より多くの患者さんが治験に登録されたことを世界で初めて示した。
がんゲノム医療の実現のため、がんのゲノム異常に基づいて治療薬の効果を検証する治験が世界中で行われている。これらの治験では、患者のがんゲノム異常を同定するため、腫瘍組織の解析が従来用いられてきた。しかし、必ずしも腫瘍組織が採取できない患者がいることや、腫瘍組織の解析に時間を要することなどが、これらの治験促進の大きな障壁となっていた。
一方、近年、リキッドバイオプシーの技術が目覚ましい進歩を遂げている。リキッドバイオプシーは腫瘍組織を採取できない患者でも、ゲノム異常を解析することができ、検査結果の返却も早いことから、従来の腫瘍組織検査がもつ課題を克服する可能性が示唆されてきた。しかし、消化器がんにおいて治験のスクリーニング検査として、腫瘍組織検査とリキッドバイオプシーの有用性を大規模に比較した研究はこれまで無かった。
国立がん研究センターでは、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)」を立ち上げ、2014年2月より「GI-SCREEN-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)」に取り組んできた。GI-SCREEN-Japanは、国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、進行消化器がんの患者の腫瘍組織を遺伝子パネル検査(Oncomine Comprehensive Assay)で解析し、治療薬を届ける全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトである。さらに2018年1月より、GI-SCREEN-Japanの基盤を活用し、進行消化器がんの患者の血液をリキッドバイオプシー(Guardant360®、Guardant AMEA Inc.)で解析するスクリーニングプロジェクト「GOZILA Study」を、米国Guardant Health社との共同研究として開始した。
この共同研究により、消化器がんにおいて、リキッドバイオプシーを治験のスクリーニングに取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査に比べてより迅速に検査結果が返却され、より多くの患者が治験に登録されたことを世界で初めて示すことができた。
本研究の成果により、リキッドバイオプシーがスクリーニング検査としてより多くの治験に活用されることで、より多くの患者に最善の医療を提供できることが期待される。また、新たなドライバー遺伝子異常の発見により、これまで着手されていなかったドライバー遺伝子異常に対する治療開発が活発化する可能性がある。なおGOZILA Studyでは、既にリキッドバイオプシーの結果に基づく医師主導治験が複数実施されている。今後も国立がん研究センター東病院は、一人でも多くの患者が最善の治療を受けられるよう、リキッドバイオプシーによるがんゲノム医療の実現を目指すという。
(Medister 2020年11月9日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 消化器がんのがんゲノム医療のさらなる発展 リキッドバイオプシーによるゲノム解析の有用性を証明へ