更新日:2020/08/17
胃がんの免疫抑制環境が引き起こされるメカニズムを解明
名古屋大学大学院医学系研究科微生物・免疫学講座分子細胞免疫学の西川博嘉教授(国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野長、同センター先端医療開発センター免疫TR分野長併任)らのグループは、胃がんの約5-10%に認められるRas homolog family member A (RHOA)遺伝子変異が、腫瘍微小環境の免疫細胞の浸潤に関わるケモカインと、代謝環境に影響を及ぼすことでがん細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞や制御性T細胞の集積をコントロールし、がん免疫療法への耐性を導くことを明らかにした。
抗PD-1抗体治療は、胃がんを始めとした様々ながん種に奏効することが報告されている。しかし、胃がんに対する抗PD-1抗体治療の奏効率は悪性黒色腫や肺がんに比べて低いことを考慮すると、胃がんではより強い免疫抑制性の腫瘍環境が形成されている可能性がある。従って、本研究では、抗腫瘍免疫応答の中心的役割を担う細胞傷害性T細胞と免疫応答を抑制する働きのある制御性T細胞とのバランスなどの胃がん腫瘍内の免疫状態を評価し、その免疫抑制環境が引き起こされるメカニズムを解明し、新規がん免疫併用治療の開発の可能性を明らかにした。
その結果、胃がんの腫瘍中に、抗腫瘍免疫を抑える働きがある制御性T細胞が多く存在する一群が存在することが分かった。また、網羅的遺伝子解析により、この群には胃がんのドライバー変異として知られるRHOA遺伝子の体細胞変異が多く存在していることが明らかになった。 RHOA変異陽性がん細胞が産生する遊離脂肪酸は細胞傷害性T細胞より制御性T細胞によって効率的に取り込まれることで、腫瘍内の制御性T細胞の増加に寄与していた。
一方、RHOA変異はPI3K-AKTシグナル伝達経路を活性化することにより、細胞傷害性T細胞を引き寄せるケモカインの生成を低下させていた。 その結果、RHOA変異胃がんは、制御性T細胞が多く集簇し免疫応答が弱い腫瘍環境を形成していた。
これらのデータからPI3K阻害薬と抗PD-1抗体を併用することで、免疫抑制的な腫瘍環境が改善され、抗腫瘍効果が増強することが明らかになり、新たながん免疫併用療法の可能性が示された。本研究成果は、今後がん免疫療法を受ける患者において、治療効果の改善につながることが予想される。
(Medister 2020年8月17日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 胃がんの免疫抑制環境が引き起こされるメカニズムを解明 ―がん免疫療法の新たな治療戦略に期待―