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更新日:2020/01/31

脱分化型脂肪肉腫の発生、進展に関わる遺伝子異常を解明

肉腫は、骨や軟部(筋肉・神経・血管・脂肪など)から発生する悪性腫瘍である。他のがんに比べると発生頻度が低く、研究開発に必要な症例の集積が難しいため、日本全国の骨軟部腫瘍診療・病理診断にあたる基幹病院と網羅的な遺伝子・タンパク質解析等を実施する研究機関とで2014年に「骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアム」を設立し研究を進めてきた。本研究はその成果で、脂肪肉腫の組織亜型のひとつである脱分化型脂肪肉腫について網羅的なゲノム解析を行い、腫瘍の発生、進展に関わる特徴的な遺伝子異常を明らかにした。

東京大学医科学研究所の平田真特任講師(研究当時)、片山琴絵助教、山口類准教授(研究当時)、東京大学大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授、国立がん研究センター研究所 の浅野尚文任意研修生(研究当時)、市川仁臨床ゲノム解析部門長、国立がん研究センター中央病院、東京都立駒込病院、九州大学、大阪国際がんセンター、千葉県がんセンター、名古屋大学、神奈川県立がんセンター、北海道がんセンター、理化学研究所らの共同研究グループは、脱分化型脂肪肉腫115症例の検体を用いて網羅的なゲノム解析を行い、その腫瘍の発生、進展に関わる特徴的な遺伝子異常を明らかにした。

今回の研究では脂肪肉腫の一つとして知られる脱分化型脂肪肉腫について、骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアムで65症例の検体を収集し、東京大学医科学研究所、国立がん研究センター研究所、理化学研究所において全エクソンシークエンス(WES)解析およびRNAシークエンス(RNAseq)解析を実施し、そのゲノム情報を収集した。また、海外のがんゲノム解析の研究プロジェクト(TCGA: The Cancer Genome Atlas)において同様に脱分化型脂肪肉腫の検体を用いて実施された50症例のWES解析およびRNAseq解析のデータを入手し、総計115症例について同じデータ解析の手法を用いて、脱分化型脂肪肉腫において高頻度に存在する遺伝子異常の特徴を明らかにした。

得られたゲノム情報から高頻度に存在する遺伝子異常を解析したところ、TP53やATRXなど既知のがん関連遺伝子の異常が確認されたものの、全体としての遺伝子変異の数は少ないことが示された。しかし、83領域、812遺伝子においてコピー数の異常が高頻度に確認され、コピー数の異常が脱分化型脂肪肉腫における遺伝子異常の中心であることが判明した。なお、これまで報告がなかったDNM3OSの融合遺伝子が、全体の8%程度の症例に存在することが明らかになった。この融合遺伝子は高分化型脂肪肉腫においては検出されず、脱分化型脂肪肉腫の特異的なマーカーの一つとして有用である可能性が示唆されている。

更に、得られた遺伝子異常と症例の臨床情報との関連性について検討し、いくつかのコピー数の異常が脱分化型脂肪肉腫の予後と有意に関連することが明らかになった。この結果に基づく新たなゲノム分類は、多変量解析により、既知の予後予測の因子と独立した新たな予後予測の因子であることが示された。

脱分化型脂肪肉腫の一部は良性・悪性の中間に分類される高分化型脂肪肉腫から発生することが知られており、脱分化型脂肪肉腫の腫瘍組織には高分化型脂肪肉腫様の成分(高分化成分)を含むものがある。今回の研究では、一部の症例について高分化成分と脱分化成分(脂肪への分化を示さない高悪性度を示す成分)の双方の組織を収集し、同時にWES解析およびRNAseq解析を行うことができた。その解析結果を比較したところ、染色体12q15領域の増幅などのコピー数の異常が二つの成分に共通して存在することを確認した。これらは、腫瘍発生の初期に関わる遺伝子異常と考えられる。また、高分化成分には存在せず、脱分化成分のみに存在する遺伝子異常を探索した結果、いくつかの遺伝子が脱分化型脂肪肉腫のみにおいてコピー数の異常を引き起こし、悪性への転化に重要な役割を果たしている可能性があることが明らかになった。

今後、同様の解析を他の悪性骨軟部腫瘍においても実施することで、悪性骨軟部腫瘍に対するより精緻な予後の予測モデルや新たな治療薬の研究開発が進んでいくことが期待されている。
(Medister 2020年1月31日 中立元樹)

<参考資料>
国立がん研究センタープレスリリース 脱分化型脂肪肉腫の発生、進展に関わる遺伝子異常を解明 軟部肉腫の個別化医療の実現に向けた基盤データの整備

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