更新日:2018/09/20
転移性脳腫瘍の新たな標準治療として「腫瘍摘出術後のサルベージ(救援)定位放射線照射療法」の有効性を確認
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院が中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、有効性の高い標準治療(最も効果的な治療)を確立するため、専門別研究グループで多施設共同臨床試験を実施している。
がん患者の少なくとも約10パーセントに脳転移が生じると報告されており、我が国のがんの罹患数が約100万人(2017年のがん統計予測)であることから、少なくとも国内では毎年約10万人の患者に転移性脳腫瘍が生じると考えられている。転移性脳腫瘍はがんによる死亡の主な原因の一つであると共に、脳の圧迫により神経障害が発生するなど、がん患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる原因の一つとなっている。
転移性脳腫瘍の治療は、腫瘍摘出術と放射線照射療法が主な治療法である。腫瘍が小さい場合、より低侵襲で、効果が期待できる定位放射線照射療法が行われ、腫瘍が数多く存在する場合は定位放射線照射療法のエビデンスがなかったことなどから、全脳照射療法が多く行われてきた。また、大きな腫瘍の場合、腫瘍自体や周囲の浮腫に伴う頭蓋内圧亢進や正常脳組織の圧迫により神経症状が出るため、摘出術が多く行われていた。摘出術の後には、再発防止を目的に全脳照射療法を行うのが国際的には標準治療とされていたが、我が国の多くの施設で、放射線照射による副作用を危惧し、放射線照射療法を行わない場合やエビデンスとなる研究はないものの全脳照射療法に代わり定位放射線照射療法が行われてきた。放射線照射の遅発性の脳への影響としては、脳症や脳萎縮とそれに伴う認知障害、放射線性壊死、正常圧水頭症、神経内分泌異常などがあり、全脳照射療法を受けた患者の10パーセントから20パーセントに認知障害が生じるとの研究もある。海外で行われた臨床試験の結果、全脳照射と定位放射線照射では、生存期間などの治療成績があまり変わらないことが報告されてきましたが、本当に定位放射線照射で十分なのかどうかはわからないままであった。
腫瘍摘出術後のサルベージ(救援)定位放射線照射療法は、全脳照射療法を行わないことから上記の毒性が少ないことや治療期間が短いといったことが期待できることから、JCOG脳腫瘍グループでは、日本の代表的な脳腫瘍の専門病院と共同で、腫瘍摘出術後に全脳照射療法と定位放射線照射療法をサルベージ(救援)療法として行う新たな治療法のランダム化比較試験(JCOG0504)を世界で初めて実施した。
2006年2月から2014年5月に、標準治療である腫瘍摘出術後の全脳照射療法を137名の患者が、サルベージ(救援)定位放射線照射療法を134名の患者が受けている。その結果、どちらの治療法を受けた患者も生存期間中央値は15.6か月であり、新しいサルベージ(救援)定位放射線照射療法も標準治療と遜色のない効果があることが世界で初めて証明された。また、認知機能検査では治療開始後の点数の差は明らかではなかったものの、手術を受けた後3か月以降に記憶障害・認知障害の副作用が出る割合は、サルベージ(救援)定位放射線照射療法を受けた患者の方が少ないことが分かった。
これらの結果により、転移性脳腫瘍の個数が1個から4個で手術が必要な場合には、腫瘍摘出術後のサルベージ(救援)定位放射線照射療法が、放射線照射による副作用を低減できる新たな標準治療としてその有効性を確認できた。放射線照射療法による認知機能障害などの副作用を軽減することで、転移性脳腫瘍の患者の生活の質(QOL)が大きく改善することが期待される。
(Medister 2018年9月20日 中立元樹)
<参考資料>
国立がん研究センター 放射線照射による遅発性認知機能障害を低減 転移性脳腫瘍の新たな標準治療として「腫瘍摘出術後のサルベージ(救援)定位放射線照射療法」の有効性を確認