事実を正確に伝え、患者さんががんと向き合えるように|【がん治療.com】
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第5回 事実を正確に伝え、患者さんががんと向き合えるように

新井 雅裕 先生
練馬光が丘病院
練馬光が丘病院副院長
■専門分野:肝臓

Q&A

 これまでの先生のキャリアについて教えて下さい。
 東京大学医学部附属病院で研修をした後、東京日立病院、東芝中央病院を経て、東京大学第一内科に勤務していました。その後、アメリカのノースカロライナ大学で2年間、肝臓移植について研究しました。帰国後は東京大学消化器内科で治療と研究、後輩の育成をしていました。2004年から東芝病院に移り、2018年4月から当院に勤めています。


 肝臓を専門にするきっかけは何だったのでしょうか?
 三つあります。まず、東京大学医学部附属病院で内科の研修を受けたとき、肝臓は再生する臓器であることに興味をもちました。再生するということは、治る可能性があるということです。次に、当時から慢性肝炎や肝硬変の人たちが肝細胞がんになりやすいことはわかっていました。つまり、慢性肝炎や肝硬変の段階で、肝細胞がんに至るリスクを減らすことができるという道筋が明らかになっていました。がんの中でも早期発見、早期治療しやすいものと考えたことも、肝臓を専門にしたきっかけの一つです。


 もう一つのきっかけは何でしょうか?
 当時は、肝細胞がんの治療法として「経皮的エタノール注入療法」という方法が始まったころでした。体の外から針を刺し、がんに無水エタノールを注入して死滅させる方法です。これは内科医である私でもできる治療法です。外科の医師に手術を任せるのではなく、私自身が直接がんを治療できることにも魅力を感じました。



 現在、肝細胞がんを検査する方法には何があるのでしょうか?
 主に画像診断を行います。超音波検査、CT検査、MRI検査の3種類です。検査に使う造影剤や機械の性能は常に上がっているため、小さい腫瘍でも早く見つかるようになっています。


 肝細胞がんを治療する方法を教えてください。
 主に三種類あります。第一に、肝臓を外科的に切除する手術治療です。腫瘍が大きい場合にはこの方法を選ぶことがあります。第二に、体の外から針を刺してがんを局所的に攻撃する方法です。以前はエタノールを注入する方法が行われていましたが、最近は針に電気を流して熱で腫瘍を焼き殺す「ラジオ波焼灼療法」がよく行われています。第三に、がんに栄養を与えている血管を塞ぐ「肝動脈塞栓療法」です。足の付け根からカテーテルを入れ、がんに栄養を運ぶ血管をゼラチン粒やビーズなどで詰まらせます。がんに届く栄養をブロックすることでがんを死滅させる、いわば兵糧攻めです。このときには抗がん剤も少量流します。この三種類を単独もしくは組み合わせて治療します。


 それぞれ時間はどれくらいかかるのでしょうか?
 手術は切除する場所や大きさによるので一概には言えません。ラジオ波焼灼療法は準備を入れて約1時間、肝動脈塞栓療法は検査も合わせておこないますので、約2時間です。ラジオ波焼灼療法と肝動脈塞栓療法では局所麻酔を行います。


 どの治療法とするのか、何を基準に決めるのでしょうか?
A 腫瘍の数や大きさ、拡がり具合、現在の肝臓の機能をもとに治療法を選びます。肝臓は胃などとは異なり、人間にとって必要な臓器なので全切除できません。また、がんを治療できたとしても、慢性肝炎や肝硬変となった肝臓はがんができやすい状態となっています。肝臓の機能を考慮しなければならないという点では、他の臓器と違う難しさがあると考えています。


 患者さんとの接し方で心がけていることは何でしょうか?
 多くの患者さんは慢性肝炎や肝硬変のころからずっと診ていますが、そのときから肝細胞がんの検査を定期的におこなっています。このような人たちは肝細胞がんになりやすいからです。その事実も、患者さんには伝えています。そのため、がんが見つかったとしても、あまり大きなショックを受けずに済んでいるようです。治療後も、肝臓はがんになりやすい状態が続いているということも必ず説明します。他のがんの場合、5年間再発がなければがんを取り切ったと言えるのですが、肝細胞がんは、肝臓がある限りリスクが高い状態が続きます。肝臓をいたわってもらうためにも、長くフォローすることになります。


 それでも、がんとわかってショックを受ける人はいるのでしょうか?
 今まで慢性肝炎や肝硬変の診療をせず、いきなり肝細胞がんだとわかった患者さんは、やはりショックが大きいようです。肝細胞がん自体の初期の症状はほとんどないので、症状が出てから肝細胞がんと診断されたときにはがんがかなり進行していた、ということもあります。そういった場合でも、事実を正確に伝えるようにしています。医師の説明一つで、患者さんの人生や選択は変わります。がんと向き合うチャンスを奪わないように心がけています。


 最近では高齢者の患者さんが増えているようですが、治療にあたって難しさを感じることはあるのでしょうか?
 70代、80代の患者さんが増えているのは確かです。高齢になればなるほど治療の危険性は高まります。また画像診断で使う造影剤は腎臓に負担がかかりますので、検査をすること自体がデメリットとなることもあります。肝細胞がんとの闘いには終わりがありませんので、治療を続けるかどうかということも含めて、がんとの付き合い方についてお話をする機会は増えています。


 最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。
 定期的な検査を心がけてほしいと思います。肝細胞がんは肝臓が悪い人にできるがんですので、健康診断などで肝機能の低下を指摘されたら、専門医に診てもらうようにしてください。今の肝臓の状態を知り、状況次第では定期的に検査を受けるようにすれば、早い段階で肝細胞がんを発見できます。また、治療後も定期的に検査を受けてもらうため、担当医とは長い付き合いになります。信頼できる医師を見つけるということも大切なポイントになると思います。

略歴

練馬光が丘病院副院長。東京大学医学部卒業。医学博士。日本肝臓学会専門医・指導医・東部会評議員。日本消化器病学会専門医・指導医・学会評議員・関東支部監事。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医。アメリカ肝臓病学会会員。日本移植学会会員。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。緩和ケア研修会修了者。臨床研修指導医。





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