更新日:2022/12/16
ラジエーションハウス 5巻
家族が突然亡くなった時、その原因を知りたいと思うのは当然のことです。これまでは、からだにメスを入れて解剖を行うことで死因の究明が行われていました。しかし医療技術の進歩により、からだにメスを入れずともAiを用いることで、より正確な死因の究明ができるようになりました。今回のお話はそんなAiを用いた死因の究明がテーマです。亡くなった少年を取り巻く複雑な家庭背景も織り交ぜながら、唯織の名推理が展開します。
死因解明に向ける想い
第五話は、救急で運ばれ死亡が確認された13歳の少年の死因を巡ってストーリーが展開します。死因につながるような外傷がなかったことから救急医は死因を心臓震盪と判断。放射線科の医師や技師は正確な死因究明のためにAiを両親に勧めるものの、父親は早く息子を家に連れて帰りたいと詰め寄ります。
そんな状況下にあっても、技師長の小野寺は心臓震盪という診断はあくまでも救急医が状況から判断したものであり、Aiなら本当の死因がわかるかもしれないと伝えます。死因を特定するためにもAiによる診断を受けることを強く推奨しますが、父親は頑なに拒み、母親もそれがわかったところで子どもが戻ってくるわけではないと拒絶。それでも小野寺はあきらめません。時間が経って、気持ちが落ちついた時、「どうしてあの子は死んでしまったのか。本当は別の原因があったのではないか」そんな考えがふとよぎる時がくるかも知れない。でも、その時に真相を解明したいと思っても、もう遅いのだ、と熱く語ります。Aiは亡くなった子どものためではなく、残された家族のためにも必要である、と説得するのでした。
不足している法学者の数
日本で亡くなる人の数は毎年100万人以上を超えており、その中で死因のわからない人の割合は約15%を占めているといいます。死因がわからない、つまり異状死といわれる状態で亡くなる人が15万人いるということです。異状死の全てが解剖されるわけではなく、実際に解剖が行われるのはその中の2万人程度で、残りの13万人については死因を解明されることなく荼毘に付されているというのです。
本著の中で唯織は、そもそも異状死の解剖にあたる法医学者の数が全国に160人ほどしかおらず、絶対的な法医学者不足であることを指摘しています。加えて病院で行う病理解剖は基本的に病院側の負担となるため、どこの病院も解剖を進んでやらないという背景があることにも触れています。
日本で死因究明のために行われている解剖には「病理解剖」「司法解剖」「承諾解剖」「行政解剖」の4つの種類があり、異状死は行政解剖によって行われるとのこと。遺族の承諾を得なくても可能ですが、監察医制度のある東京23区と名古屋、大阪、神戸のみでしかできないため、警察署長が必要と判断した場合に遺族の承諾なしに解剖ができるよう新しい制度が作られたといった解剖を取り巻く状況についても本著の中で解説されています。
特に児童虐待は深刻な問題で、加害者が親の場合は解剖を承諾しないため、何か異状があった場合には、その箇所だけを解明できるAiが大事なのだと熱弁が続くのでした。実際に、日本医師会では、15歳未満の死亡例については全例にAiを行うよう提言を出しており、またモデル事業も行っているそうです。
本当の家族
死亡した少年の家庭環境は複雑で、両親は再婚同士。母親は死亡した少年の生みの母でした。父親は母親の連れ子である亡くなった少年と本当の親子になるため、努力を重ねてきたというのです。しかし、13歳といえば多感な年頃。再婚を快く思っていなかった彼は、新しい父親に反発することが少なくなかったというのです。父親への反抗から夜遊びをしたり、悪いことを繰り返したり……。それでも時間が問題を解決してくれる、と信じていたのです。時間をかけて本当の家族になろう、そう思っていただけに、突然の息子の死を受け入れられずにいたのです。
母親は技師長小野寺のことばに気持ちを動かされAiを受けることを承諾します。Ai画像を撮影し、読影を行う唯織。その読影の素早さは、周りのスタッフを驚かせます。脳と心臓は異常なし、そして死因が肝臓破裂による出血性ショックであると判定します。
唯織の推理
事故ではないのではないかと疑問を抱く唯織。そこから唯織の推理が展開していきます。Aiによって判明した死因。状況をつなぎ合わせると、ある推測が浮かび上がってきたのです。
杏や技師長はAiの結果を両親に伝えます。誰が犯人なのか。誰もが疑わしく思える状況の中で、唯織は病院の待合室に少年の弟(父親の連れ子)がポツンとひとりで座っているのをみつけて声をかけ、当時の様子を聞き取るのでした。そこには犯人につながる大きなヒントが隠されていたのです。
少年は事故だったのか、殺人だったのか。唯織の推理は正しいのか。複雑化する人間関係を背景に、Aiという医療技術の進歩とともに、真犯人が誰なのか推理しながら読んでみるのもおもしろいかも知れません。
執筆者 美奈川由紀 看護師・メディカルライター
看護師の経験を活かし、医療記事を中心に執筆
西日本新聞、週刊朝日、がんナビ、時事メディカルなどに記事を執筆
著書に「マンモグラフィってなに?乳がんが気になるあなたへ」(日本評論社)がある
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