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更新日:2021/05/23

肝細胞がんとは|症状や検査、治療、ステージなど

肝細胞がんについて、特徴・症状・原因・分類・検査方法・診断・病期(ステージ)・生存率・治療法・再発・転移など様々な観点から解説します。

国立がん研究センターの日本の最新がん統計では、2017年にがんで亡くなった人の多い部位は1位が肺、2位が大腸、3位が胃、4位がすい臓、5位が肝臓となっています。肝臓がんで亡くなった人は、男性17,822人、女性9,292人で、男女計27,114人となります。また、2014年に肝臓がんと診断された人は男性27,315例、女性13,512例で、男女計40,827となります。罹患率では肝臓がんは2014年で10万人あたり32.0人、50歳代から増加する傾向があります。女性に比べて男性に多い傾向があり、罹患率の増える50歳から54歳では女性4.5人に対し、男性は23.0人という結果が出ています。またピークを迎える80から84歳では、女性97.1人に対して男性は224.6人となっています。

男性のがんは、40歳以上になると胃や大腸、肺のがんが多くを占め、同じ40代でも女性は乳がんや子宮がんなどが多くを占めます。女性はさらに高齢になるほど、乳がんや子宮がんの割合は減少しますが、消化器系(胃、大腸、肝臓)のがんと肺がんの割合が増加していきます。(以上、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」「地域がん登録全国合計によるがん罹患データ」より)。

肝細胞がんとは

肝臓のがんは、肝臓にできた「原発性肝がん」と他の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。原発性肝がんには、肝臓の細胞ががんになる「肝細胞がん」と、胆汁を十二指腸に流す管(胆管)の細胞ががんになる「胆管細胞がん」などがあります。

日本では原発性肝がんのうち肝細胞がんが90%と大部分を占め、肝がんというとほとんどが肝細胞がんを指すので、この項目では「肝がん」と記して「肝細胞がん」について説明しています。

肝がんの多くは肝炎ウィルス(C型、B型)の感染による慢性肝炎や肝硬変が背景にあります。日本ではC型肝炎ウィルスの肝がんは約70%に上ります。C型、B型肝炎ウィルスに感染している人(肝炎を発症していないキャリアも含む)は、肝がんになりやすい「肝がんの高危険群(ハイリスクグループ)」といわれています。リスクの高い人は、肝がんが発症しても早期に発見し治療することができるよう、定期的に検査を受けることが必要です。また、C型肝炎ウィルスに感染している人は、インターフェロンなどによる抗ウィルス療法によって発がんの可能性を減少させることが明らかになってきています。アルコールのとりすぎは発がんの可能性を高めますので、注意が必要です。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどないです。各自治体や職場などの検診で肝炎ウィルス検査を行っていて、医療機関での定期的な検診や精密検査、他の病気の検査のときに肝がんが発見されることが多くあります。肝がんの特有の症状は少ないですが、進行した場合に腹部のしこりや圧迫感、痛み、おなかが張った感じなどを訴える人もいます。がんが破裂すると腹部の激痛や血圧低下を起こします。ほかには肝硬変に伴う症状として、食欲不振、だるさ、微熱、おなかが張った感じ、便秘・下痢などの便通異常、黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)、尿の色が紅茶のように濃くなる、貧血・こむら返り、浮腫(むくみ)、皮下出血などがあります。肝硬変が進むと肝性脳症という状態になり、意識障害を起こすこともあります。

また、肝硬変になると肝臓に血液を運ぶ門脈の流れが悪くなります。血行が悪くなると、食道や胃などの静脈が腫れてこぶのようになります(食道・胃静脈瘤)。これらのこぶが破裂して(静脈瘤破裂)大量の吐血や下血が起こることもあります。

日本の肝がん治療は世界でもトップレベルにあり、早期発見・早期治療により長期生存も期待できます。多くの方法があるので、医師と相談して適切な治療を選ぶことが大切です。

肝及び肝内胆管がん死亡者数

転移性肝がん

肝臓がんには、肝臓が原発巣(げんぱつそう:最初にがんができた部位)である場合と、他の臓器からがんが転移して肝臓がんを発症する場合とがあります。他の部位で発生したがんの細胞が、血管やリンパ管を経由して肝臓へ到着し、そこで増殖したものが、転移性肝がんです。

肝臓は、他の臓器よりも「転移性のがん」が発生しやすい部位です。その頻度は、肝臓を原発巣とするがんのおよそ20倍であるといわれており、がんで死亡した人のうち、およそ20~50%の人に転移性肝がんがあるといわれています。

転移性肝癌の特徴としては、原発性の肝臓がんとは違い、転移する元となった原発のがんと同じ性質を持つということがあります。例えば、肝臓が原発巣となる肝細胞がんと、大腸がんから転移してきた転移性肝癌を比べると、転移性肝がんの性質は原発であった「大腸がん」と同じ細胞、同じ性質を持つのです。つまり、肝臓が原発巣である「肝細胞がん」とは、がんとしての性質が違うため、診断法や治療法が異なってきます。

かつての転移性肝癌は、全身転移の一部とかんがえられており、予後不良、積極的治療はしない方針であることが多かったのですが、現在では、手術手技の進歩や、化学療法の進歩などにより、一部の転移性肝癌では根治や延命が可能となるケースがあります。

原発性肝癌

肝臓がんのもう一つの顔として、肝臓が原発巣となる「原発性肝癌」があります。これは文字通り、肝臓の中で発生したがんであり、肝臓がんそのものの性質をもつがんです。

肝臓には、肝臓そのものを構成し、肝臓本来の「代謝」や「解毒」などの機能をもつ「肝細胞」と、肝細胞の代謝によりつくられた胆汁の通り道となる「胆管」を構成する「胆管細胞」があります。原発性肝癌の多くは、このうちの肝細胞で発生することが多く、日本での「原発性肝癌」のうち、肝細胞癌が95%程度、肝内の胆管癌が4%程度であるといわれており、この二つのがんで「原発性肝癌」のおよそ98%を占めているといわれています。

原発性肝癌の発生要因はさまざまですが、中でも患者数がもっとも多い「肝細胞がん」は、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスとの関係が指摘されています。原発性肝癌の患者さんで肝炎ウイルス感染の有無を調査したところ、およそ80%の患者さんが何らかの肝炎ウイルスに感染しており、特にC型肝炎ウイルスに感染しているケースがおよそ6割いることが分かっています。C型肝炎ウイルスに感染すると、慢性肝炎から肝硬変の過程を経て、やがて原発性肝癌が発生します。

一方で、最近では肝炎ウイルスへの感染が無いにもかかわらず、生活習慣病、とくに糖尿病や脂肪肝のある人で、原発性肝癌を発症するケースが増えているといわれています。
いずれの場合も、かなり進行するまで目立った自覚症状が見られないのが特徴です。

胆管細胞がん

肝臓内の胆管細胞は、肝細胞が作り出す「胆汁」を運ぶための通り道を構成する細胞です。ちょうど、肝細胞が住宅街の家々、胆管細胞が家の間を通る道路と考えると、想像しやすいかもしれません。その道路はやがて1本の大きな道路となり、肝臓の外へ「胆汁」を運んでいます。

胆管細胞がんは、原発性肝癌のうち、およそ4%程度と、頻度としては少ないがんです。肝細胞がんと同様、肝炎ウイルスとの関連性も指摘されていますが、肝炎ウイルスへの感染が無い場合でも、発生することがあります。

胆管細胞にできたがんは、胆管を通って全身へと移動する可能性があり、肝内や、他の臓器(リンパ節、骨、肺など)への転移がみられることがあります。また、手術により胆管細胞がんを切除しても、再発の可能性があり、がんが大きくなってしまった場合などは、手術の適応とならないこともあります。

肝細胞がんの症状

肝臓は「沈黙の臓器」といわれています。このことから、初期の自覚症状はほとんどなく、がんが一定以上進行することによって、初めて症状が出現します。進行するとみぞおちあたりに固いしこりを触れることができるようになったり、腹部に圧迫感、軽度の痛みを感じたりします。

がんがさらに進行して肝臓が破裂した場合はすでに「末期」と呼ばれる時期ですが、この時期の症状としては、強い痛みや血圧低下、貧血などが起こります。

また、肝細胞がん特有の症状ではないものの、何らかの理由で肝臓が障害されている場合も、特有の症状が見られるようになります。例えば、食欲不振、全身倦怠感、黄疸、尿の濃縮、皮下出血などです。しかし、肝細胞がん特有の症状ではないため、これらの症状が出現したからといって必ずしも肝細胞がんであるとは限りません。

肝細胞がんの原因

肝細胞がんの原因にはいくつかありますが、肝細胞がんになった人の約80%以上は、過去に肝炎ウイルスに感染していたという集計結果があります。B型肝炎ウイルスや、C型肝炎ウイルスです。

これらのウイルスに感染しても、数年間は特に症状もない状態、いわゆる「キャリア」と呼ばれる状態が続きます。しかし数年すると、肝臓は慢性的な肝炎を起こした状態となり、肝臓の正常な細胞は徐々に死滅・再生を繰り返すようになります。この状態がさらに数年続くと、肝細胞の繊維化が進行し、肝硬変となります。

肝細胞の繊維化が進む過程において、正常な肝細胞でもがん遺伝子やがん抑制遺伝子の影響を受けるようになり、肝細胞がんを発症するといわれています。肝炎ウイルスに感染してから、肝細胞がんへ移行するまでの期間は、およそ10~20年。実際に肝細胞がんを発症した人の内訳をみると、B型肝炎がウイルスの感染によるものが約15%、C型ウイルスの感染によるものが約75%といわれています。

一方、肝炎ウイルスに感染していないのに、肝細胞がんを発症する人もいます。その大半はお酒の飲みすぎ、糖尿病や肥満など「生活習慣病」である人、となるようです。そもそも生活習慣病を発症するにいたる「生活習慣」により、長い年月をかけて肝臓はダメージをうけています。これが原因で、やがて肝細胞がんを発症してしまうのです。

しかし、近年ではアルコールを摂取していないにもかかわらず、脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を起こし、その過程で肝細胞がんを起こすという例もあり、現在そのメカニズムが研究されています。

通常がんの原因は特定が難しいものの、肝細胞がんはがんの原因が約8割特定できるという非常にまれな病気であるといわれています。

肝細胞がんの検査と診断

肝がんの検査としては、超音波検査やCTなどの画像検査と腫瘍マーカー検査を組み合わせて行います。必要があれば針生検などの検査を追加して行います。

CT、MRI検査

CTは、X線を使って体の内部(横断面)を描き出し、治療の前にがんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べます。
病変を詳しくみるため、通常ヨード造影剤を入れてから何回かタイミングをずらして撮影することで、がんの性質や状態を調べます。そのためヘリカルCT、MDCTなど高速撮影のできる装置が使われます。

MRIは磁気を使った検査です。必要に応じてCTと組み合わせて、あるいは単独で行われます。MRIでもガドリニウムなどの造影剤を使用することがあります。

CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、以前に造影剤のアレルギーの経験のある人は医師に申し出る必要があります。

腫瘍マーカー

腫瘍マーカーは血液の検査で、体のどこにがんが潜んでいるかどうかの目安になります。肝がんでは、AFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKAⅡ(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)と呼ばれるマーカーが使われます。ただし、肝がんでもこれらのマーカーがいずれも陰性のことがありますし、がんのない肝炎・肝硬変、あるいは他のがんでも要請になることもありますので、画像診断も同時に行うことが一般的です。

腫瘍マーカーについてもっと詳しく見る

血管造影検査

足の付け根の動脈から細い管(カテーテル)を差し込んで、肝臓や腸管の動脈に造影剤を入れ、血管や病巣の状態を調べる検査を行うことがあります。

肝細胞がんの病期(ステージ)

病期とは、がんの進行の程度を示す言葉で、英語をそのまま用いてステージともいいます。説明などでは、「ステージ」という言葉が使われることが多いです。病期には、ローマ数字が使われ、肝細胞がんでは、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA、ⅣB)に分類されています。

病期(ステージ)分類

肝がんの病気は一般に、がんの大きさ、個数、がん細胞が肝臓内にとどまっているか、体のほかの部分まで広がっているかによって分類されます。

基本的には、肝内病変の状況(T 因子)、リンパ節の状況(N 因子)、遠隔転移の状況(M 因子)から構成されています。

1:日本肝がん研究会病期分類

①腫瘍が1つに限られる
②腫瘍の大きさが2㎝以下
③脈管(門脈、静脈、胆管)に広がっていない
①~③すべてに合致 …T1
2項目合致 …T2
1項目合致 …T3
すべて合致せず …T4
A…リンパ節・遠隔臓器に転移がない
B…リンパ節転移はあるが、遠隔転移はない
C…遠隔転移がある
T1のA…Ⅰ期
T2のA…Ⅱ期
T3のA…Ⅲ期
T4のA、T1~T4のB…ⅣA期
T1~T4のC…ⅣB期

2:国際体がん連合(UICC)肝癌病期分類

T1:単発腫瘍で脈管浸潤がないもの
T2:単発腫瘍で脈管浸潤がある、もしくは多発腫瘍で最大径が5cm以下のもの
T3a:5cm以上の多発浸潤
T3b:門脈もしくは肝静脈核の大分枝に浸潤した腫瘍
T4:胆嚢以外の隣接臓器に直接浸潤がある、もしくはがんが破裂したもの
N:所属リンパ節に転移があればN1、なければN0
M:遠隔転移があればM1、なければM0

・ステージ1:T1、N0、M0
・ステージ2:T2、N0、M0
・ステージIIIA:T3a、N0、M0
・ステージIIIB:T3b、N0、M0
・ステージIIIC:T4、N0、M0
・ステージIVA:T1~4、N1、M0
・ステージIVB:T1~4、N0~1、M1

肝障害度分類、Child-Pugh分類

病気とは異なりますが、治療法の選択にあたっては肝臓がどのくらい障害されているかも評価します。肝障害度分類は、肝機能の状態によって3段階に分けられます。

肝障害度Aの基準は、以下の通りです。
● 腹水がない
● 血性ビリルビン値が2.0㎎/dl未満
● 血清アルブミン値が3.5g/dl超
● ICGR15が15%未満
● プロトロンビン活性値が80%超え
の場合となります。

もう一つの肝障害度Bの基準は、以下の通りです。
● 腹水の治療効果がある
● 血性ビリルビン値が2.0~3.0㎎/dl
● 血清アルブミン値が3.0~3.5g/dl
● ICGR15が15~40%
● プロトロンビン活性値が50~80%

さらに、肝障害度Cになると、その基準は以下のようになります。
● 腹水の治療効果がない
● 血性ビリルビン値が3.0㎎/dl超
● 血清アルブミン値が3.0g/dl未満
● ICGR15が40%超
● プロトロンビン活性値が50%未満

ほかにChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類が用いられることもあります。

Child-Pugh分類では、脳症、腹水、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン活性値をそれぞれ症状や値によって得点化し、その合計点を算出します。値が高い場合をC、低い場合をAとしています。

どちらもAからCの順序で肝障害の程度が強いことを表わします。肝障害度分類では、下の表のそれぞれの項目別に重症度を求め、そのうち2項目以上があてはまる肝障害度に分類されます。また、2項目以上に該当した肝障害度が2か所以上ある場合は高いほうの肝障害度に分類されます。たとえば、肝障害度Bの項目が3項目該当していても、Cが2つあれば肝障害度Cとなります。

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肝細胞がんの生存率・予後

肝細胞がんの生存率は、他のがんに比べて低いことが特徴です。

肝細胞がんと診断されてから治療を受けた方の5年生存率をみると、全病期では38.6%です。病期ごとに見ていくと、Ⅰ期では59.1%、Ⅱ期では36.1%、Ⅲ期では16.6%%、Ⅳ期では3.0%となってしまいます。

病期(ステージ)症例数5年生存率
Ⅰ期2,33059.1%
Ⅱ期1,65836.1%
Ⅲ期1,28816.6%
Ⅳ期4113.0%
全病期5,78138.6%

全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2019年2月現在)による
※対象データは、診断年:2005年~2009年の最新5年間とした

多くのがんでは、根治治療を行えば5年ほどで再発がなくなり、5年間再発せずに経過できれば「治癒した」と判断します。しかし、肝細胞がんは、肝炎や肝硬変などの肝臓への障害がある限り、新たにがんができてしまう可能性が多分にあります。そのため、何年たっても「治癒という言葉が使いにくい」がんといえます。

肝細胞がんの治療法

手術(外科療法)

がん病巣を手術で除去する療法で、原発巣だけでなく、他の部位に転移した転移巣も取り除きます。がんそのものを外科手術で除去する局所療法です。がんの治療法として最も基本的な治療法です。 肝細胞がんにおける手術は、大きく分けて2種類あります。1つは肝切除術です。2つ目は肝移植です。

<肝切除術>
一般に、がんが肝臓内にとどまっており、がんの数が3個以下の場合は、腫瘍の大きさに関係なく肝切除術が選択されます。手術を受ける上で肝機能が最も重要となり、黄疸や腹水が見られる場合や、その他の検査値が悪い場合には、上記の状態であっても内科的な治療が選択されます。

また、肝臓は解剖学的に4つの区域に分類することができ、これにより術名が変わってきます。解剖学的な区域に沿って切除する方法を系統的切除といいます。肝に大きな問題が無ければ、肝臓は2/3ほど切除しても機能することができますし、微小転移を肝臓内で起こしている可能性があるため、基本的には系統的切除を行います。

腫瘍から最小限の距離を置いて区域に関係なく切除する方法を非系統的切除(部分切除)といいます。肝硬変を伴う場合や、転移性肝がん、肝機能が悪い場合などで選択されることが多い治療法で、近年では腹腔鏡下で行われることが多くなっています。

<肝移植>
肝移植は肝臓をすべて取り出し、そこに提供者(ドナー)からの肝臓を移植する、非常に大きな手術となります。若くして肝硬変から肝がんが発生した患者のうち、肝がんが直径5cm以下の1個だけか、直径3cm以下の3個以内の基準内であれば、保険診療で肝移植術を受けることも可能です。

主に末期の肝臓がんに対して適応となるものの、治療できる医療機関が限られてしまうというのが現状です。

手術(外科療法)についてもっと詳しく見る

抗がん剤(化学療法)

化学物質(抗がん剤)を利用してがん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療法です。全身のがん細胞を攻撃・破壊し、体のどこにがん細胞があっても攻撃することができる全身療法です。

肝細胞がんにおける化学療法には、全身化学療法と肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法の3種類があります。

<全身化学療法>
全身化学療法は、肝臓内で病変(がん)が多発している場合や、肝臓外に転移している場合が対象となります。抗がん剤は複数ありますが、最近では経口薬であるソラフェニブ(ネクサバールR)が延命効果を示すことから、標準治療に位置付けられています。

<肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法>
肝動脈化学塞栓療法、肝動注化学療法は、がんを栄養している肝動脈から、抗がん剤を注入する方法です。肝動脈化学塞栓療法は抗がん剤と合わせて塞栓剤も注入して治療をします。

この2つの方法は、一度に多くのがんに対して治療ができるため、がんの数が多かったり、他の治療が難しいという場合が適応です。肝臓の機能が悪い場合には、塞栓剤を注入しない肝動注化学療法が行われます。

また、がんにより門脈が中枢部分で閉塞し、肝動脈化学塞栓療法や他の治療が行えない場合には、ポートと呼ばれる小さな機械を右肩あたりに埋め込み、そこから肝内のがんに抗がん剤を注入する「リザーバー動注療法」が選択されることもあります。

抗がん剤(化学療法)についてもっと詳しく見る

穿刺局所療法

身体の外から針を刺して治療を行う方法を「穿刺局所療法」といいます。一般に、がんの大きさが3cmより小さく、3個以下が対象とされており、副作用が少なく短期間で社会復帰を見込めるという特徴があります。

穿刺局所療法には、主に3つの治療法があります。経皮的エタノール注入療法(PEIT)、経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)、ラジオ波焼灼療法(RFA)の3つです。

<経皮的エタノール注入療法(PEIT)>
経皮的エタノール注入療法(PEIT)は、無水エタノール(純アルコール)を肝がんの部分に注射して、アルコールの化学作用によってがんを凝固壊死させる治療法です。

<経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)>
経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT)は、体の外から特殊な針をがんに直接刺し、マイクロ波という高周波の電磁波をあてることで、がんを熱で凝固させる方法です。

<ラジオ波焼灼療法(RFA)>
ラジオ波焼灼療法(RFA)は、特殊な針を体外からがんに直接刺して通電し、針の先端部分に高熱を発生させることで、局所のがんを焼いて死滅させる方法です。

どの方法も針を刺す際などに痛みを伴う場合があるため、局所麻酔あるいは静脈麻酔などを使用して治療を行います。治療後は腹痛や発熱などの合併症が起こることもあります。

放射線療法

腫瘍の成長を遅らせるために、あるいは縮小させるために放射線を使用する治療法です。がんに侵された臓器の機能と形態の温存が出来ますまた、がんの局所療法であるため、全身的な影響が少なく、高齢者にも適応できる患者にやさしいがん治療法です。

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免疫療法

上記の三大治療法に加えて、免疫療法は近年「第4の治療法」として期待されています。免疫療法は研究が進められていますが、有効性が認められた免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤などの一部に限られています。自由診療で行われている免疫療法には効果が証明されていない免疫療法もありますので、慎重に確認する必要があります。

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陽子線治療

通常のX線の放射線治療ではがん局部の周囲の正常な細胞も傷つけてしまいますが、陽子線治療はがん局部だけを照射して周囲の正常な 細胞が傷つくことをより抑えることができます。また、痛みもほとんどなく、1日15~30分程度のため、身体への負担が少ない治療です。1日1回、週 3~5回行い、合計4~40回程度繰り返します。

肝細胞がんは特に、放射線治療により「正常な肝細胞を破壊してしまう」ことから、この治療法は困難であると考えられていました。しかし、陽子線治療の登場により、病変部へ選択的に放射線を当てることが可能となりました。近年、陽子線治療の高い治療効果が報告されるようになったことから、陽子線治療を行うことが増えてきています。

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重粒子線治療

陽子線治療と比べて、さらにがん局部を集中的に治療が可能となります。がん細胞の殺傷効果は陽子線治療の2~3倍大きくなります。 進行したがんは低酸素領域がありますが、このようながんでも治療が可能です。また、X線では治療が難しい深部にあるがんの治療も可能です。治療は1日1 回、週3~5回行い、合計1~40回程度繰り返します。平均では3週間程度の治療になります。1回当たり、20~30分程度の治療時間になります。

重粒子線治療は、高い線量の放射線を集中的に加え、陽子線やX線よりも高い生物効果(細胞致死作用)を有する治療法です。しかし、放射性肝障害を懸念して治療できなかった肝細胞がんに対して、より高い治療効果が期待でき、根治性と低侵襲性とを兼ね備えた新しい治療法として期待されています。

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肝細胞がんの再発・転移

肝細胞がん治療の3本柱ともいわれている肝切除、局所療法、TACEを行っても、治療後のがん再発率は他のがんと比べると極めて高率です。その再発率は5年間で約70~80%ともいわれており、慢性肝炎や肝硬変といった肝細胞がんの原因とされている病態が改善しない限り、がんは再発を繰り返すと考えられています。がんが再発した場合は基本的に、最初のがん治療と同様の治療を行います。条件が合えば再手術を行うことも可能です。

進行した肝細胞がんに対しては、唯一分子標的治療薬であるソラフェニブのみが適応となりますが、腫瘍が50%以上縮小する率を示す奏効率は数%と低いことから、余命を数か月延長する程度の効果しか期待できません。また、多発肝内転移や脈管浸潤などが出現すると、一般的には治療困難となります。

参考文献

国立がん研究センターがん情報サービス 肝細胞がん基礎知識
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/
がん研有明病院 肝臓がん
http://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/liver_i/index.html
東京医科歯科大学 肝胆膵外科 肝細胞癌について
http://www.tmd.ac.jp/grad/msrg/liver/cancer01.html
大阪労災病院 肝細胞がん
http://www.osakah.johas.go.jp/gankyoten/gan/kansaibou.html
東京慈恵会医科大学 外科講座
http://www.jikeisurgery.jp/diseasegroup/hpb/hepat/hepat-ca/
日本肝胆膵外科学会
http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=7
肝炎情報センター 肝がん
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/kangan.html
小児慢性特定疾病情報センター 肝細胞癌
https://www.shouman.jp/disease/details/01_05_034/
国立がん研究センターがん情報サービス 肝細胞がん検査・診断
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/diagnosis.html
日本赤十字社 がん診療情報・がん診療センター 肝細胞がん
http://www.osaka-med.jrc.or.jp/cancer2/each/cancer4.html
国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん治療
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html
南東北がん陽子線治療センター 症例紹介
http://www.southerntohoku-proton.com/indication/case-liver.html
放射線医学総合研究所病院 肝臓
http://www.nirs.qst.go.jp/hospital/conform/conform_04c.shtml
愛知県がんセンター中央病院 肝がん
https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/hosp/12knowledge/iroirona_gan/04kan.html#a07
一般社団法人日本肝胆膵外科学会
http://www.jshbps.jp/modules/public/index.php?content_id=7
国立がん研究センター がん情報サービス 肝細胞がん 転移・再発
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/relapse.html
東京大学医学部付属病院 肝癌治療チーム 肝臓がんとは
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/livercancer/about/index.html

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